「闇」

目に見えるもの、見えないもの











…また、夢を見た。孤児院の時の夢。
時々見るんだ…こうして思い出していく。
忘れていた記憶が、夢という形で、少しずつ。



 巳六は、造船区の仕事をやめる手続きをしてきた。
 太一たちも、<E>だとバレてからは働いていない。もしものために金を多く蓄えてあったので、キョーダイ救出と島脱出に安心して専念することが出来る。
 皆は、アジトの広間で今後のことを話し合っていた。
巳六「え、だってバイオレットって藍色のことじゃね?」
 …が、巳六のせいで話がだいぶ脱線していた。
英二「バイオレットは菫色のことだよ!藍色はインディゴ」
巳六「マジかよ。俺、政府ビルで<E-バイオレット>って呼ばれてたから藍色の藍って名乗ってたのによ」
幸四「間違ったまま5年も過ごしていたんですねー」
 ”5年”というのは、巳六がビルを抜け出して旅をしていた期間だ。
 巳六はうーんと唸って、コクンと頷く。
巳六「…ま、いいじゃん。どうせ俺、もう巳六だし」
太一「…プッ」
 太一は皆の様子を見て笑っていた。
太一「お前、本当に巳六なんだなぁ」
巳六「んん?」
幸四「夢…ですか、太一?」
 太一はハッとなる。
太一「あーいや、まあー…うん、そうだ」
 夢。
 太一は、<E>の中では唯一、昔の記憶を、少しではあるが覚えている。
巳六「夢って何」
太一「普段はうまく思い出せないんだけど、夢に出てきて初めて1つ1つのシーンを思い出す感じかな。1回そのシーンを思い出しちまえば、ずっと覚えてるんだ」
巳六「つまり、昨日夢に俺が出てきて、それで俺のこと思い出したっつーこと?」
太一「ああ。だいたい会ってから夢に出てくるな。利九、三琴、幸四、五月、七々は出てきた」
 巳六は「へー」と言おうとしたが、すぐに首を傾げる。
巳六「ん?英二は?」
 英二を見た。英二はプッ、と噴き出す。
英二「太一ってば、俺はまだ夢に出てきてないんだってさ。ヒドイよね」
太一「…ごめ…どうしても出てこないんだ…」
幸四「薄情ですよねえ」
 太一は苦笑して、手で両耳を覆った。
巳六「えー何で出ねーんだろ」
英二「まあ、俺と太一、そんなに2人で喋らなかったって利九が言ってたし、仕方ないよ」

え…そうだっけか…?
喋らなかったっけ、俺ら。ああ…やっぱ思い出せねえ


巳六「あ、俺七々手伝ってくる」
英二「何、急に!」
 巳六は、向こうで利九に言われた資料整理をしている五月と七々の元へ行ってしまった。
太一「ホント、気まぐれだよなアイツ!」
 笑いながら言った。
 しばらく七々と巳六が何かを喋っていた。巳六が五月に何かを話したように見えた後、五月の怒鳴り声が聴こえてくる。
幸四「…可哀想に。珍獣だと知らずに話しかけてしまったんですね」
英二「あのねえ…」
 といいつつ笑いをこらえる。
 その時、玄関がガチャリと開いた。
利九「全員集まってくれ」
 利九だ。利九は、手に入れた<E>に関する資料を持って零の家へ行っていたのだ。
 全員、中央のテーブルに集まった。
太一「あ、三琴がまだキッチンに…」
利九「俺が後で話しておく。これは、まあ知らなくてもいいことだが、お前ら自身のことだから一応話しておきたいことだ」
 資料を広げた。
利九「…<E>の実験についてだ」
太一「…!」
 一瞬で空気が引き締まる。
利九「みんな、聴いても大丈夫か?」
太一「大丈夫だよ、な、みんな」
 一応利九が気を使ったのだが、全員特に問題はなさそうだ。
利九「…おまえらの頭の中には、いくつものチップが入っている」
五月「チップだと…?」
 チップが小型の機械、ということくらいなら、皆知っていた。
利九「そのチップが、脳内の色々な所に結び付けられているようだ。目から発動させるために、視覚を司る部分を中心にな。そして…記憶についてだが」
七々「記憶…」
 実験以前のことを全く思い出せない原因とは。
利九「<システム-E>の心臓部は、記憶を司る部分を陣取っている。スペースとしては丁度良い。余計な記憶も忘れて一石二鳥…だと」
五月「フザけやがって…」
 全員顔をしかめる。怒りと、そして呆れだった。
幸四「利九。そんなに頭の中がチップだらけで、元の状態に戻すことが出来るんですか?」
 利九はため息をついた。
利九「レイが…とても難しい、と言っていた。そのままでも生きることに支障はないそうだが、
出来る限りチップを外す研究をしてくれるそうだ。政府はチップを外すことなんて考えてもいなかったらしいからな」
英二「何で分かるの?」
利九「”チップ取り付けの手術が完了した場合、元に戻すことは出来ないと考えた方がいい”と、しっかり書いてあった。虫唾が走る話だな」
 沈黙が流れた。
巳六「…ま。正直頭に来るけど…考えたって仕方ねーじゃん」
 沈黙を破ったのは巳六。
巳六「俺らが、今、出来ることは何だよ?」
 太一が巳六に賛同する。
太一「そうだよ!チップのことは、考えない…というか、レイに任せる。俺達は、残りのキョーダイ・八重のことと、アンテナについてのことを考えよう」
 曇っていた皆の顔が少し明るくなった。
英二「そうだね。とりあえず明日もビルに行くってことでいいの?」
利九「ああ。明日の目的は八重のことと、アンテナについてのデータだ。今日は皆、ゆっくり休め」
 皆が部屋に散っていく中、太一だけが利九の前に残る。
太一「なあ利九。前、俺だけ”実験が終わってない”って言ってたよな」
利九「太一の記憶が残っているのは、チップ取り付け手術は完了しているが、
定着手術が完了していないせいみたいだな。どちらにしろ、取り外すのは他の皆と同じで難しい」
太一「そっか。良かった」
利九「良かった?」
太一「俺だけ取り外せても全然嬉しくないって思ってた。おやすみ」
利九「…」
 長い、長い1日が終わった。


 また、政府ビルにやってきた。今回で2回目なのだが、どうにも慣れそうにない壮観さだ。
 太一たちは奥の方へ進入した。今回は、前回とは少し違うルートだった。
利九「セキュリティは頻繁に変化するからな」
太一「やっぱ利九って凄いんだなー」
 利九はいつも通りクールだった。
利九「そろそろ…傭兵が居る部屋だな」
英二「居る…って、居ることが前提?」
利九「そうだ」
 利九のさらっとした一言で、一気に緊張が高まる。

ガチャッ。

 次の部屋には、確かに傭兵か居た。
 しかし、一番慌てる羽目になったのは利九だった。
利九「お前ら…何でここに居るんだ…!」
??「よーお!利九じゃねーかー!!!久しぶりだなあ!」
 5人の傭兵が居たのだが、どうやら利九の知り合いか何からしい。
太一「何?誰だよ利九」
??「俺は士季(シキ)だ。お前らが、利九が言ってたキョーダイか??利九、やったじゃねぇかー!!こんなに取り返しやがって!!」
 大柄な男・士季は、利九の背中をバシンと叩く。
英二「利九の知り合い?」
利九「…まあ…な。俺が1人でお前らを助ける準備を色々していた時に、世話になっていたフリーの傭兵一味だ」
士季「こいつ全然心開かねーから大変だったんだぜぇ?」
利九「余計なことは言わなくていい。キョーダイの名前は、右から英二、太一、巳六、七々、幸四、五月だ。
傭兵のこいつらは、こいつが士季、右から千秋(チアキ)、夏夜(ナツヨ)、冬華(フユカ)、木春(コハル)」
巳六「木春って…あ、ハル!」
五月「…!」
 メンバーの中に、何と前回侵入時に居たハルが居た。
利九「お前ら、ハルを知っているのか?」
 利九は前回、ダクトの中に居たのでハルに会っていない。
巳六「うん。前回ちょっと世話に―」
 ガキン。
 少し開けた場所から、武器が交じり合う音がした。
 木春と五月が、前回同様、戦っていたのだ。