「業」





「ねえ、カルマさん」
 夜中。寝付けなかったアカネは、ベッドの上でカルマに話かけた。
「…何だ」
 カルマもまだ寝ていなかった。別のベッドの上から答える。
 アカネはカルマの反応を聞き、話し始める。
「私とカルマさんって、やっぱ似てますね。雰囲気とかは、私の方が変わってしまったけど…何か、存在っていうかが」
「…まあ、立場は似たような物になったな」
 アカネも使命を背負っているようなもの。カルマは、そこには同意していた。
 アカネはカルマの言葉に頷きつつも、意見を口にする。
「立場もですけど…何か、人間と違うようで、人間と同じ、みたいなところが似てるかなって」
「…」
 答えず、天井を仰ぎ始めたカルマを見ながら、アカネは続けた。
「特別な力を持っていて不老不死なんだけど、それ以外は人間と同じカルマさん。
人型ロボットなんだけど、人間と同じ心を持ってる私…なんて。
私の心や感情は、メモリーに蓄積された経験がパターン化されてる物なんですけど…でも、アサヒ言ったんですよ。
人間だってみんな、経験や思い出が増えると成長するんだって。だとしたら、私だって人間と同じですよね?」
 アカネはカルマに質問する形でそう言ったので、カルマも、
「…確かに、そうかもしれないな」
 と、ちゃんと答えてあげた。
「ふふふ…嬉しい。カルマさん、ありがとう!」
 アカネは布団の中で、嬉しそうに笑った。
「今日は何か、私ばっかり喋ってますね。明日はカルマさんの話を沢山聞きたいなあ」
 話はそこで終わり、2人は知らないうちに眠りについていた。


 次の日。
 カルマとアカネは、森の中の拠点へとやってきた。
 木で組み立てられた、簡素な小屋だった。
 しかし中に入ると、本棚にびっしり本が収められていて、パソコンやテレビなどの電気機器もちゃんとあった。
 鉱物と宝石がまとめられた箱がある。カルマは鉱物を宝石に加工して売り、生計を立てていた。
 台所やシャワーなど、生活に必要な設備もあり、カルマが長い間ここで過ごしてきたことがうかがえた。
 カルマがここに自分以外の誰かを入れたのは、アカネが初めてである。
「うわあ~、ここがカルマさんの家なんですね」
 デバイスやパソコンを確認し始めたカルマをよそに、アカネは家の中を観察し始めた。
 アカネは本棚から本を取る。
「私も今日からここで過ごすんですよね?私も勉強しようかな?」
「…まあ、他にやることも無いだろうしな」
 カルマは、アカネをここに住ませるつもりで連れて来たので、そう答えた。

 パソコンをいじるカルマと、本を読み始めるアカネ。自然と、その形がスタートする。

 アカネは本を読みながら、カルマに聞いた。
「ねえ、カルマさん…沢山の人と別れて、ずっとここに1人で居て、寂しくなかったんですか?」
 カルマは、無表情のままアカネを見て、
「いや、別に」
 と答えた。
「え、寂しくなかったんですか。何でですかね?」
 アカネは更に質問をする。昨日言っていた通り、カルマの話を聞きたいのだ。
 カルマは特に動じることもなく、無表情のまま答えた。
「これだけ長い間生きるのに、1つ1つの別れを悲しんでいたら使命に支障が出るだろう。
私は生み出された頃から自分の運命を知っている。1人が寂しいとか、別れが悲しいという概念自体が存在しないんだ。
心そのものが、使命を円滑に進めるためにあると思っているから当然だろう」
「…そっか」
 アカネは、少し考え込んでから言った。
「確かにそうですね。私は、アサヒと別れるの、凄く寂しかった…
でも、カルマさんみたいに沢山の人と別れなきゃいけないんだったら、そんな感情あったら耐えられないですもんね…」
「そういうことだ。それに…長く生きすぎて、心が少しずつ無に近付いているのを感じる」
「…無?」
 アカネは、カルマの”無表情”から”表情”を探そうとしたが、無理だった。
 カルマは無表情のまま続ける。
「ただでさえ心が他の人間より少ないのに、長く生きすぎて、心がどんどん消えていくのを感じるんだ。
使命以外に関する感情が消えていく。もう何も感じない」
「…」
 アカネは静かにカルマに近付き、手を握る。
「カルマさん、これからは私が居ますよ」
 アカネはカルマの目を、じっと見つめて言った。
「アサヒが私に、自爆装置を付けてくれました。背中の奥にあります。
カルマさんと共に過ごして、カルマさんが使命を全うして消える時に一緒に消えられるようにって。
自爆装置が起動すると、私の体は溶けてただの金属の粉になります。
クライムが消えて、カルマさんが消えて、私も消える…ね、これでカルマさんの不安は何も無くなるでしょ?」
 カルマは、天を仰いだ。
「…そこまでやってくれたのか。ありがとう」
 カルマは、アサヒの”アカネがカルマの助けになるように、俺がアカネを何とかしてやる”という言葉を思い出した。
 アカネだけでは無い。アサヒに対しても、礼を言いたかった。
「私もアサヒも、カルマさんのお役に立てて嬉しいですよ。さて、勉強しようかな!」
 アカネはそう言い、再び本を読み始める。
「…」
 カルマも、パソコンに目を戻した。
 こうして、2人の日常が始まったのだった。


 カルマはあの後、グゲン5世と会談が出来ないか、ギルドに何回か連絡を入れた。
 だが、それらは全て電話の時点で断られてしまっている。
 今は情報社会だ。会わなくても、グゲン5世の話題はいくらでも入ってくる。
 ギルドのため、魔物を退治するために尽力するギルド長の鏡。独自のルートで開発したロボットの流用。
 なのでカルマは、グゲン5世とギルドに対し、今までは何の不安も感じていなかったのだ。
 アカネを狙う理由だけが気になる。それだけが解消されれば、何も言うことは無いのだが…