1926年 某日。
各国は約5年かけて、”大陸の災害”と名付けられた災害の被害から復興した。
結区:マイオウギ、承区:ガト、転区:ホウテイの3国で協力して復興したので、3国の絆は更に強固な物になった。
起区:フシンは、ここ数十年は沈黙を保っている。災害によってどんな被害が出たのかも、外からは分からなかった。
最近の出来事といえば、マイオウギが王政では無くなったことだ。
以前から王族と共に政治を行う政府があったが、これからは政府が全ての政治を行うのだ。
そして王族は、長い間歴史を築いてきたとして、人々の歴史の象徴的な存在となった。
経済は、ビル、多様化した建築様式、電気機器、車、医療、生産。全てにおいて安定期に入る。
経済は成長期から安定期、そして過渡期に入ったのかもしれなかった。
ある日。カルマは、パソコンにメールが来ていることに気付いた。
メールが来ることなど、ほとんど無い。あるとすれば…
『やあ、カルマ!久々だね。今日は大ニュースがあるんだ!
”気”のレーダーのソフトなんだけど、持ち歩けるようになったよ!
ぜひ、うちの研究所まで足を運んでくれ! クオン』
カルマはこのメールを読み、複雑な気持ちになった。
レーダーは欲しい。が、クオンに会うのがかなり面倒に感じた。
しかしそうも言ってはいられない。クオンには、会わなければならなかった。
クオンとは、20年くらいは会っていなかった。
ソフトを直して貰った後も、壊れはしなかったが新しいバージョンなどを受け取りに来ていた。
しかし、通信が発達してからは研究室に行かなくても、パソコンでアップデート出来るようになったのだ。
カルマは、久々にクオンに会うのだ。
クオンの研究室は、以前の場所とは違っていた。 今は、クオンの自宅が研究所になっていた。
「失礼する」
カルマは一言いって、玄関の横の研究室の扉を開けた。
すると、パソコンに向かって作業をしていたクオンが、顔を輝かせて飛び上がる。
「やあ、カルマ!来てくれたんだね、待ってたよ!!!」
「今日は細胞も心音もとらないからな」
興奮気味のクオンに手を引かれる前に、カルマはクオンを制す。
目の前には、年を重ねたクオンが笑っていた。
年は重ねたが、あの頃のクオンと雰囲気は変わっていない。
クオンは、カルマの体を上から下までまじまじと観察した。
「本当に年を取らないんだね。やっぱり君は神の遣いなんだ…!
是非、心音を録らせて欲しいなあ。カルマ、人間は一生に心臓が鳴る回数が決まっていてね…」
「もう、カルマが困ってるじゃない!!」
クオンの言葉に割り込んだのは、年を重ねたミクリヤだった。
「カルマ、久々ね」
年を重ねたミクリヤは、以前よりも優しい雰囲気になっていた。
「ああ」
「すぐにクオンにレーダーの準備させるわ。ゆっくりしていってね」
ミクリヤはそう言って、微笑んだ。
その時。
研究室の奥の扉が開かれる。
そして、1人の少年が現れた。
「こいつが神の遣いかよ。何だ、ただの女じゃねえか。期待外れだわ」
薄緑の髪をし、ヘッドフォンを首に掛けた目つきの悪い少年は、カルマに近付いてガンを飛ばした。
「こらアサヒ、やめなさい!!」
ミクリヤが少年を叱る。しかし、少年は今度はミクリヤにガンを飛ばして言った。
「うるせーな…俺に指図すんじゃねえよ」
そしてアサヒと呼ばれた少年は、研究室の出口へ向かって歩き始める。
「アサヒ、どこに行くのよ!」
「どこだっていいだろ。めんどくせえ」
ミクリヤの怒号をスルーし、アサヒは出て行ってしまった。
残されたクオンとミクリヤは、カルマを見て苦笑した。
クオンは、頭を掻きながら言った。
「いやあ…どうやら反抗期でね。うちの息子がごめんよ、カルマ」
「…?」
息子。
カルマはクオンの顔を見た後、ミクリヤの顔を見る。
何か言いたそうなカルマに、ミクリヤはこくんと頷いて言った。
「その通りよ、カルマ。アサヒは、私とクオンの子供なの」
カルマには、ミクリヤはともかくクオンにそういった感情があることが不思議だったが、
思い返してみれば災害が起きた時のクオンは人間らしかった気もする。
そう思えば意外でも無いか。
カルマはアサヒの様子を思い出すと、クオンを見てため息をつく。
「…どうやって育てたら、ああなるんだ」
アサヒの初対面であるカルマへの反応は、反抗期と呼ぶにはあまりにも…だった。
クオンは再び頭を掻き、
「まあ、グレてるからね」
と、反抗期を素直に言い換えた。
ミクリヤは寂しそうな表情をする。
「私たち…いつも研究で忙しくて構ってあげられないからね。そう思うと、アサヒには申し訳ない気持ちもあるわ」
クオンとミクリヤは、顔を見合わせて再び苦笑した。
「…」
カルマは、クオンの手に小型端末が握られていることに気付く。
「クオン、それが新しいレーダーか?」
カルマにそう聞かれ、クオンは笑顔に戻って言った。
「そうだよ!ボタンを押すと、この端末レーダーの画面にパソコンのと同じレーダーが出るのさ。
カルマ、これからはレーダーを持ち歩けるんだよ!」
「では、早速…」
カルマが端末レーダーを受け取ろうとした時…
電話が鳴った。
クオンとカルマは一瞬止まったが、ミクリヤが電話に出たのでやり取りを続ける。
カルマは、無事端末を受け取った。
「…これか…なるほど」
カルマはそう呟き、端末レーダーをいじって使い方を理解した。そして、
「クオン、いつもありがとう」
と礼を言う。
クオンは、感極まってうずくまるような仕草になった。
「君に喜んで貰えるのが一番嬉しいよ…!くっ…感慨無量だよ…」
クオンのカルマへの熱い感情は、ミクリヤへの愛情とはまた別のベクトルに存在しているのだろう。
用が済んだカルマが帰ろうとした時。
電話での通話が終わったミクリヤが、クオンに話しかけた。
「またギルドからよ。また断るの?」
「もちろん。カルマとの約束もあるからね」
神妙な面持ちになって答えたクオンの言葉が、カルマは気になる。
「約束?何の話だ」
自分の名前が出たのだ。カルマは、クオンにそう聞いた。
クオンは説明を始める。
「前に、人型ロボットを作るって言っただろう?実は、完成したんだけどね。
ロボットの存在を聞き付けたギルドが、魔物退治のために大量生産したいと言ってきてね。でも、カルマとの約束があるから断ったんだ」
カルマは、自分の影響で生まれたロボットが人間に干渉することに懸念があるのだ。
クオンは続ける。
「断っても何回も交渉してくるから、ロボットはバレない所に封印したんだ。設計図も消してしまったよ。内容は僕の頭に入ってるしね」
カルマは、しばらく考えた。
クオンはそこまでやってくれたが、まだ不安要素は残る。ここは、決定的な終止符を打っておきたかった。
そこでカルマは、
「私が直接ギルドに行って断ろう」
と提案する。
ギルドの設立に関わったカルマなら、必ず話を付けることが出来るだろう。
それに、いつも一方的にレーダーの加護を受けるだけでは申し訳ないので何かお返しがしたい、という気持ちもあった。
「僕が勝手に作ったロボットなのに、すまない、カルマ」
「いや、いい」
申し訳なさそうに行ったクオンに、カルマはそう答えた。
実のところ、ギルドが今どんな様子なのかを知っておきたいという気持ちもあった。
これは、いい機会なのかもしれない。
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