「業」

・ごう〔ゴフ〕【業】

人間の身・口・意によって行われる善悪の行為。

前世の善悪の行為によって現世で受ける報い。「―が深い」「―をさらす」「―を滅する」

理性によって制御できない心の働き。






 1898年 某日。

 結区:マイオウギは食料の生産。承区:ガトは学問と科学。転区:ホウテイはエネルギー資源とギルドによる魔物の管理。
 3つの国は、互いに協力し合い、更に発展していた。
 木材による建築だけでなく、コンクリートを使ったビルなども建ち始める。
 道路、車、電車も次々と出現し始めた。
 衣服は、機動性や質に関してほぼ完成されたので、新しいデザインが次々と生み出されていった。

 ここ数十年で最も進歩したのは、IT・科学だった。
 承区:ガトには、いくつかの科学研究所があった。
 自然科学、人文科学、社会科学、生物科学、医科学など。他、大学に属する研究所もいくつかある。

 そして、魔物に関する研究をしている”魔物研究所”があった。

 魔物研究所にある、とある研究室の扉の前に、1人の少女が居た。
 髪は赤褐色。その長い髪をトップで1つに結い、服は主に黄色と黒。そして腰に1本の剣を下げている。
 この少女は、”神の遣い・カルマ”だった。
 カルマは普段、極力カルマであることを隠して生活をしている。
 しかし今日は、”神の遣い・カルマ”としてこの研究室にやって来たのだった。

「失礼する」
 カルマは一言いって、扉を開けた。
 すると、パソコンに向かって作業をしていた銀髪の青年が、顔を輝かせて飛び上がる。
「やあ、カルマ!来てくれたんだね、待ってたよ!!!」
 興奮気味にそう言った青年は、すぐにカルマの元に向かい、両手を握った。
 そして、
「早速、細胞を頂こう」
 と、カルマの手を引こうとする。
「いや、ちょっと待て。落ち着け」
 さすがにカルマは、すぐに青年を制した。
 彼は、この研究室の研究者で、名をクオンと言う。この部屋は”クオンの研究室”と呼ばれた。
 魔物研究所は、魔物の行動、種類、大陸の分布など、魔物に関する様々な研究をしている。
 そしてクオンの研究室では、魔物の発する”気”についての研究をしていた。
 だからカルマは、この研究室にカルマとして訪れたのである。
 しかし、クオンの言った細胞とは何だろうか。
「ごめんごめん!僕は、クオン。よろしく、カルマ」
「私は、カルマだ。よろしく、クオン」
 2人は初対面だった。カルマは、クオンの研究室のことを噂で聞き、彼と公衆電話で連絡を取ってこの研究室に招かれた。
 カルマがここに興味を持った理由は、もちろん”気”についてのことである。
 カルマは、まず先程のことについて聞いた。
「クオン、細胞とは何だ?”気”と関係あるのか?」
 それを聞いたクオンは、あっさりと言った。
「いや、細胞のことは後でいいよ。先に君の求めている”気”についての話をしよう」
 細胞のことは後回しになり、2人はパソコンの前に向かった。

 クオンは、カルマにパソコンの画面を見せた。
 そこには大陸の地図、そして地図上には、無数の光る点があった。
 カルマはピンと来た。
「…まさか」
 カルマは目を大きく見開き、画面に噛り付く。
 そして、説明を求めるかのようにクオンの顔をじっと見つめた。
「驚いてくれたねカルマ、嬉しいよ」
 クオンは嬉々としてそう言い、咳払いをしてから説明を始める。
「僕は、文献から”気”のことを知った。そして”気”に興味を持ったんだ。まあ、好奇心さ。すぐに理数系の研究所からこっちに移った。
”気”について、とある確信を持ったから、研究してみたくなってね」
 クオンはカルマの食い入るような表情に満足し、続ける。
「霊は電波に近い存在で、周波数を捉えることが出来れば感知できるんだ。それは知ってるかい?」
 カルマは頷き、
「ああ。本で読んだことがある。…なるほど」
 と、クオンの本意を察したように答えた。
 クオンはカルマの反応に更に満足し、続ける。
「さすがだね。そう、罪人は霊体。霊体から放たれた”気”は電波と近いはず。つまり、周波数を捉えることが出来れば感知が出来る。
それが、僕が作ったこの画面のレーダーのソフトさ」
 地図上にある無数の光る点は、魔物の放つ”気”なのだ。

 カルマは、無数の魔物の”気”の中から、クライムの”気”を探らなければならない。
 それには体力が必要な上に、クライムがいつどこに現れるか分からないので、定期的に”気”を探らなければならないのだ。

 しかし、このレーダーがあればかなり効率が良くなる。人間的な行動をする光る点が地図上に現れたら、それがクライムということだ。
 カルマは、クオンをじっと見つめて言った。
「クオン、このソフトを私にくれないか。頼む」
 クオンは笑みを浮かべ、大きく頷いた。が…
「もちろん、いいよ!…と言いたいところだけど。実はまだ作ったばかりで、不具合が多いんだよね。
まだやらなきゃならない作業がいっぱいあるから、君がここに定期的にレーダーを見に来るといいよ」
「分かった」
 カルマは納得したが、そういえば話はこれで終わりでは無かった。
 クオンは再びカルマの手を引く。
「じゃあ、細胞もらうね!」
 細胞とは何だろうか。魔物の研究と何か関係があるのだろうか?
 カルマがそう考えていると、クオンは自分で我に返る。
「あっ、今日はミクリヤが居ないんだった。細胞は明日か…あ、細胞っていうのはね、魔物の研究とは関係が無いんだ。
ただ、神の遣いの体の仕組みに興味があってね。調べさせてもらってもいいだろ?ほら、レーダー見せてあげるからさぁ」
「…」
 クオンは、カルマに屈託のない笑顔でせがんだ。カルマも、タダでレーダーを見せてもらうので断るに断れない。
「…分かった」
 カルマは渋々了承した。
「ありがとう!!」
 クオンは喜び、改めてカルマに説明する。
「細胞を調べてくれるのは、生物学者のミクリヤだ。
彼女は生物科学と僕の助手を掛け持ちしているから今日は居ないんだけど、明日は居るからまた明日来てくれるかい?」
「ああ」
 どちらにしろ、ここには何度も来ることになる。カルマは了承して、クオンの研究室を出た。

 カルマは最近は森の中の拠点に居たのだが、今日から魔物研究所の周辺で宿を取ることにした。