「罪」

・つみ【罪】

道徳・法律などの社会規範に反する行為。「―を犯す」

罰。1を犯したために受ける制裁。「―に服する」「―に問われる」

よくない結果に対する責任。「―を他人にかぶせる」






 1876年 某日。

 カルマは、とある小屋に居た。
 ここは、大陸の真ん中ぐらいの所にある、人が訪れないような森の中のカルマの1つの拠点である。
 カルマは普通、状況に応じて各地の宿を行ったり来たりしているのだが、
 行き場所に困った際は、いつ何処で何が起こっても何処にでも行けるように、大陸の真ん中にあるこの小屋で寝泊まりしていた。

 今ここに居るのには、理由があった。

「…神よ。私とクライム…罪人とのやりとりは見ていたか?教えてくれ…私に、真実を…」

 カルマは、神に語りかけた。
 すると…

―カルマよ、すまない。

 以前と同じ様に、神の声が聴こえた。
 声は、カルマの頭の中に直接語りかけてくる。
 カルマと神は、話を始めた。

―ここまで問題が複雑化してしまうとは思わなかった。すぐに終わると思っていた。
 だから、お前には余計なことを話す必要が無いと思っていたのだ。

「…そういうことか。しかし問題が複雑化し、しかもまだ終わるめども立っていない。さあ、神よ…私に真実を教えてくれ」

―分かった。私は、大陸の生命を自由に操る力を持っている。
 しかし…操れる生命は木々などの自然だ。生物の命と心、これらは私の力ではどうにも出来ないのだ。

「…命も?では、私のことはどうやって生み出したのだ?」

―最初から話そう。人々は大昔に心を鎮めるため、罪の祭壇を作った。
 罪の祭壇は、そこで罪の内容を告げ、反省の言葉を口にすれば罪は消えるとされたが、あまり人々の間に浸透しなかった。
 そして、私が自然災害を鎮静化しても、戦争だけは終わらない…土地を豊かにしようとも、戦争で奪い合い焼けてしまう。
 そこでだ。私はあえて、負の印象の強い罪の祭壇を間接的に利用し、人々を救おうとした。罪の祭壇を神聖化させた。
 あの土地だけに、楽園のような自然美を表現する。人々に、あの場所を聖地だと認識させる。負を吸い取ってくれる聖地…
 人々は次第に、自分の心が闇に侵されそうになった時に、あの場所に行けば自分は許される、と思うようになる。

「祭壇は、嵐で崩壊してしまったが…」

―嵐で崩壊するより少し前。戦争は罪の祭壇の影響で、少しだけ少なくなった。が…人々は…自分で罪を背負わなくなったのだ。
 そのうち、逆に戦争は残虐になっていった…これは私に、人の心というものが理解しきれていなかったせいだ。
 良かれと思ったことが、逆効果になったのだ。そして、”罪人”が生まれてしまった。

「…どうやって?」

―私の力が干渉した祭壇に、長年溜めこまれた人々の罪の意識の残留思念。
 それらと、戦争で亡くなった1人の青年の魂が結びついて霊体となったのだ。私は人の命…そして魂を、自分の意志で操ることが出来ない。
 罪人は私の意志と関係無く、しかし私の力で、生まれてしまったのだ。罪人は長年溜めこまれた人々の罪の意識を内包している。
 それらが負の力となり、それらの負を生み出した人々に負を還元しようとしているのだ。それが呪いだ。

「魔物が生まれたり、罪人が実体化したりしているが、やはりそれらは神の力ではどうにもならないのか?
神の手では命や心はどうにも出来ないから…?」

―そうだ。魔物は、人間に生態が近く単調で純粋な獣が、空気中に漂っている罪人の”気”に侵されて魔物化している。
 例えば、人間が呪われると負の力に侵され、罪人に操られているような様子になるが、
 獣が呪われると負の力を強く受けすぎて、自身も”気”を纏ってしまうようだ。
 バースが呪われなかったのは、普通の人間以上に複雑で強い意志を持っていたからだと思われる。
 そして罪人は、元々1人の少年の魂と結び付いている。
 次第に人間としての意識が芽生え、強い思いが私の力に反応して実体化したのだろう。

「分かった。そして…神よ。私はどうやって生み出された?」

―私は、罪人を生み出してしまった自分を恨んだ。罪人は私が余計なことをしなければ生まれなかった。
 そして…よく考えてみると、私の力で生き延びた者も居れば、私の力のせいで死んだ者も居るのでは無いか?
 私は考えた。人間は完璧では無いが、そもそも完璧である必要など無い。人々は失敗を繰り返して成長する。
 私がこの力で、それを妨げてはならない。人々は自分で業を背負い、自分で罪を背負えるのだ。そうして歴史は紡がれる。
 私の絶対的な力で、それらを操作するなど、許されることでは無いのだ、と。その時だ。カルマ…お前が生まれた。

「…?」

―私は、この力を二度と使わないことを誓った。すると、自然に対して注がれていた力をせき止めたことで力が逆流し、
 その力と、戦争で死んだ1人の少女の体と魂が結び付き、カルマが生まれたのだ。
 私は、この少女のことも罪人のことも操作は出来ないが、力を感じ取ることは出来る。少女からは、罪人の負を相殺できる力を感じた。
 そして不老不死であることに気付いた。そこで私は、少女を”業・カルマ”と名付け、最後の力で生み出したカルマを罪人を狩る者としたのだ。
 それがせめて、私に出来ることだと思った。

「…そうか。これで辻褄が合う。神よ、ありがとう」

―…”勝手に生み出した”…”尻拭い”…確かにそうかもしれない。カルマ、そしてクライムには本当に申し訳ないことをしている。
 だが…カルマに使命を達成して貰わないと、私の力のせいで大陸が滅んでしまうのだ。どうか、よろしく頼む。
 そして…全てが終わったら、その時は…

「ああ…分かった。やっと真実を知ることが出来た。これで心置きなく、使命に集中できる。
私は、神の遣い、”業・カルマ”。罪人を狩るために生まれてきた…」










→「業」