「誕生」





「さあ、とどめを刺しなさい…!!」
 傷だらけで地面に這いつくばっているバースは、立って自分に剣を向けているホウプに対して言い放った。
 自身も傷だらけのホウプ、その後ろには同様に傷だらけのライクとドリームが居た。
 死闘の末、ホウプたちは何とか魔物たちを殲滅し、ホウプとバースの1対1での戦いとなり、バースを下したのだった。
 バースは何故か、とどめを刺されることを望んだ。
 ホウプは、剣を振り下ろせずに居る。
「…バース…何のつもりだ?やけに、潔いじゃねーか…」
 ホウプの問いに、バースは何の躊躇も無く答えた。
「だって…死んだら魂になって、クライムの魂と結び付いて永遠を手に入れることが出来るんだもの…望みが叶うのよ…
ほら、あなたたちに勝ちなんて、元々存在しないのよ、この戦いには…!」
 ホウプは、冷静に呟いた。
「バース…カルマやクライムは、好きで長く生きている訳じゃないと思うぜ」
 その時。
「教えてやろうか、バース」
 カルマが現れた。
 ホウプとドリームの表情が輝く。
「カルマ!勝ったのか…!!」
「カルマ、無事で良かった…!」
 喜ぶ2人とは逆に、バースの表情に絶望が浮かぶ。
「…そんな…クライム…?嘘でしょ…?」
 カルマは、先程の言葉の続きを言った。
「バース…永遠は、”無”だ。私は長く生きていて、どんどん心というものが消えていくのを感じる。
昔は私にも、喜び、哀しみ…そういった感情があったような気がする。どんどん近付いているんだ、”無”に。
お前もこんな風になりたいのか?バース」
 バースはカルマを睨みつけ、「あはははは」と不気味な声で笑った。
「カルマ、それはあなたが1人で生きてるからよ。私は違う…私はクライムと一緒に永遠に生きるの。一緒に生きるつもりだったのよ…!!」
 バースはそう言うと、力を振り絞って立ち上がった。
 ホウプはバースに剣を突き付けて叫ぶ。
「動くな!!」
 しかしバースは、剣を構えてじりじりと歩き始めた。
 バースは、笑いながら声を絞り出す。
「…どうせ、あなたは、私を殺せないわよ。だったら、私は…」
 刹那。
 バースは最後の力を振り絞り、もの凄いスピードで谷へ向かって走った。
 カルマは気付いた。
「まずい!!止めろ!!!」
 カルマの叫びも虚しく…

 バースの体は宙を舞った。
「…クライム…これで、あなたと…?」
 そしてバースは、谷底へと落ちていった。

「バース!!!」
「バース!!」
「バース…!!」
 ホウプ、ライク、ドリームは、谷底を覗き込んだ。
 バースは谷底の川に落ち、見えなくなった。

 恐らく、もう…無理だろう。

 3人は、声を出して泣いた。

 カルマは思う。
 ホンメイやガクリの時は、罪人の影響で出来てしまった状況を何とかしたい、しかし彼らの決意を否定できない。そのことで迷っていた。
 しかし、今回は切り離せない程、罪人と人間が深い関わりを持ってしまった。
 バースとクライム…だけでは無い。ホウプ、ライク、ドリーム、ギルド、魔物、そしてカルマ。
 もはや、人間の歴史は”人外の力”と人間とで紡がれてしまっていた。

 数日後。川の下流でバースの遺体が発見される。
 3人は、再び泣いた。
 放たれた魔物たちは、無事にギルドの行使した厳戒態勢によって退治された。
 ”革命の日”は、静かに幕を閉じた。


 あれから数週間後の夜。
 ホウプ、ライク、ドリーム、そしてカルマは、例の酒場に居た。
 久々にこのメンバーで来た酒場だ。
 …1人足りないが。
 緊急時以外でギルド長と幹部全員が外出することは、基本的には出来ない。
 では何故、彼らがここに居るのか。
「引き継ぎもイイカンジだぜ。中々骨のあるヤツでさあ」
 ホウプは笑いながら言った。
 そう、ホウプはギルド長を、別の若者に引き継がせるつもりなのだ。
 そしてライクとドリームも、幹部を別の若者に引き継がせるつもりである。
 ホウプはその理由を再確認するように言った。
「開拓者としては、大満足だぜギルドは。でも…そろそろ、大陸の人間にバトンタッチしてやらねえとな。
今後ギルドを担うのは、この大陸の若者だぜ」
 その理由には、カルマも納得していた。
「お前たちは、よくやってくれた。ギルドのお陰で、人間は窮地から脱出することが出来た。これ以上、お前たちばかりを巻き込みたくない」
 そうカルマが言うと、ドリームが身を乗り出して言った。
「巻き込まれただなんて思ってないけどね。まあ、本当はカルマのためにずっとギルドに居たいけど、
何かそれじゃ大陸のためにならないような気がするって意味では居ない方がカルマのためになるかな、みたいな」
 この大陸が背負っている問題は、とても重い。
 3兄弟はカルマのために、それらを一生背負おうとしたが、カルマはそれを拒否していた。
 自分たちがカルマの負担を背負おうとすればするほど、カルマが悩むということを、3人は理解した。
 そして、ギルドから離れる理由を作ったのだ。
「なあ、カルマ」
 ホウプは笑ったままカルマに話しかけた。
「俺たち、大陸の東にある島々に行ってみようと思うんだ。元々、この大陸である程度のことをしたらそっちに手を広げるつもりだったしな」
「…そうか。良いじゃないか」
 そういえば、出会った頃にそんなことを言っていた。カルマは無表情で同意した。
 カルマの無表情にも、3人とももう完全に慣れていた。
「ああっカルマ、嬉しそうだね。良かった!」
 カルマは特に嬉しそうにはしていなかったが、ドリームにはそう見えたようだった。
 カルマに東の島々へ行くことを伝えることが出来たホウプは、1つだけ、気になっていることをカルマに聞いた。
「なあ…カルマ。バースの魂は…クライムと、結び付かなかったんだよな?」
「そうだ。バースは1人の人間として亡くなった」
 バースが死んだ時、バースが落下した地点から”気”は感じなかった。
 クライムは、バースが死ぬより前に空気中に拡散された。そして、再び実体化するには数十年はかかるだろう。
 確かに、予測…いや、希望…ではあるが、バースの魂はクライムとは結び付かず、1人の人間として死んでいったはずだ。
「よし」
 それを確認出来たホウプは、満足した。
 それからは、他愛のない会話が始まる。
 ホウプとドリームが笑いながら喋り、カルマが無表情で時々会話に入り、それらを楽しそうに見つめるライク。
 夜は更けていった。