「類似」

・るい‐じ【類似】

互いに共通点があること。似かようこと。「筆法が―している」「―品」






 1875年 某日。

 カルマは朝一番の列車に乗って、承区:ガトを通り起区:フシンへ向かった。
 列車はフシンに直接は行けない。フシンはどの国とも交流をしていないからだ。
 列車を降りてからは、カルマは徒歩でフシンに向かった。
 魔物の気配を避けながら歩いていると、フシンが見えて来た。
 フシンの外観は…百数十年前と、それほど変わっていなかった。
 国全体が高い塀に囲われていて、とてもじゃないが入り込める雰囲気では無い。
 あえて変わった所があるとすれば、塀がより強固になった印象、ということだけか。
 カルマは木の陰に隠れ、”気”を探ることにした。はなから侵入出来るものとは考えていない。
 体力は充分だ。カルマは、集中して”気”を探る。

 …居た、罪人だ。罪人はやはり、フシンに居る。
 しかし、それだけでは無かった。

 魔物の気配もした。

 カルマは集中を解き、もう1度フシンの外観を観察した。
 特に、混乱しているような様子は無い。
 カルマは考えた。
 バースは、フシンと一緒に各国を制圧して、この大陸を統一してみせると言っていた。
 しかし、フシンの武力はマイオウギと同等ぐらいだ。
 マイオウギ、ガト、ホウテイを全てフシンが制圧するなど、到底無理な話である。
 フシンの内部に魔物…
 …まさか。
 カルマは走り出した。ギルドに戻らなくては。


 カルマは来た道を戻り、列車に乗ってホウテイのギルドに戻って来た。
 そしてすぐにギルド長の部屋へ向かう。
 そこにはホウプが居た。ホウプは手に持っていた資料を机に置き、すぐにカルマの元へ駆け寄る。
「カルマ、どうだった!?」
「ホウプ、よく聞け。今すぐに各国へ伝えなければならないことがある」
 カルマは、バースや罪人よりも優先しなければならないことを話した。
「フシンが各地に魔物を放つ可能性がある。各国に、厳戒態勢を敷かせるんだ」
「!?」
 ホウプは一瞬戸惑ったが、事を急ぐべきことだと理解し、すぐに政府に連絡を入れる準備を始めた。
「カルマ、厳戒態勢は大っぴらに公開しない形にするぜ。フシンは現状沈黙を保っている。先に動くと難癖付けられるからな」
「ああ、そうだな」

 ギルドは、大陸中の対魔物のプロフェッショナルである。魔物に関しては、各国に対し行使力があった。
 フシンが魔物を放つ可能性があることは各国に密に知らされ、それぞれ内密に魔物に対する厳戒態勢が敷かれた。


 それから数日は、とりあえず魔物が放たれることは無かった。
 しかし、ギルド長の部屋に居るホウプとカルマの元に、ライクが神妙な面持ちで現れる。
「2人とも、ちょっと…」
 ライクは、カメラの映像を確認していたようだった。
「リアルタイムで見てた映像なんだけど、今行けば間に合うかも」
「…?」
 ホウプとカルマは、顔を見合わせた。


 鉱山の、フシン領とホウテイ領を隔てた谷。
 そこに、ホウプとカルマは居た。
 そして向こう側には…
「あら、また会ったわね」
 バースだ。
 ホウプはバースに向かって叫んだ。
「バース、そこで何をしている!?」
 よく見ると、先日映像で見た内容のように、フシン兵たちが何かの作業…組み立て作業をしている。
 バースは、また不敵な笑みを浮かべながら答えた。
「何って、橋を作ってるのよ。以前の橋じゃ小さくて、不便だったものね」
 それは、小さい橋では魔物が通れない、という意味だろうか。
 カルマは意識を集中させる。やはり、バースからは気配を感じることは出来ない。
 しかし…

「!?」

 近付いて来る。これは魔物では無い…”人間的な気配”だ。
 新たに誰かに憑りついた罪人だろうか。
 木の陰から、それは現れた。
 カルマは息を呑んだ。

 罪人…

 それは、過去にホンメイやガクリから飛び出した、人間の男のように見えたそれ…
 その姿によく似た、長い黒髪に漆黒の服を着た、人間の男だった。

 状況を理解出来ずに、絶句することしか出来ないカルマをよそに、罪人によく似た男はバースの隣に並んだ。
 バースは男に対し、微笑んで話しかけた。
「”クライム”。橋は今日中に架けられるわ。形は出来たから、クレーンで架けるだけだもの」
 それに対し、男は、
「…そうか」
 と答えた。
 喋ったのだ。罪人によく似た、その男は。
 カルマは我に返った。
 彼が誰なのか、確認しなければならない。
「お前!」
 カルマは男に対し、叫んだ。
「お前は…罪人か?答えろ!!」
 男は、カルマをじっと見つめる。
 そして答えた。
「そうだ。久々だな、カルマ。神…だったか?奴はどうしている?私を勝手に生み出しておいて、私を消そうとしている、”自称”神は」

 男は、罪人だった。そして、今そこに立ち、喋ったのだ。

 カルマは更に叫んだ。
「お前の体は霊体なのか?”クライム”とは何だ!!」
 カルマの質問に対し、口を開こうとしている罪人をバースは手で制し、代わりに答える。
「確かに霊体だけど、私には人間と同じように見えるわよ?カルマ、あなたとよく似てるじゃない。ねえ、クライム。
クライムという名前は、”罪人”なんて人間っぽくないから私が付けてあげたの」
 カルマは、状況を少しだけ理解した。
 罪人は霊体だが、誰かに憑りつくということをやめ、実体化したのだ。
 だがおかしい。
 兵士たちの様子を見ると、罪人が近くに居るので、呪いを受けている。
 しかしバースは、呪いを受けているような様子は一切無いのだ。
 カルマには、1つの疑問が生まれていた。

 神よ…あなたは、私に何か、隠し事をしているんじゃないか?

 罪人に関して起こる様々な”予想外の出来事”は、最初は神にも予想出来ない物だから仕方ないとカルマも考えていた。
 神は自分の手で罪人を消せないくらいなのだから。
 しかし、罪人は”私を勝手に生み出しておいて”と言ったのだ。
 神は、罪人が”突然生まれた”と言っていたはずだ。
 そこに生じた矛盾は、疑惑へと変わり、それをきっかけとして今までの”予想外の出来事”に対しても、
 カルマに神に対しての疑問を抱かせることとなった。

 しかし今は…目の前に罪人が居る。彼を倒して全てが終わるのなら、それでいい。
 そして、今回で倒すことが出来なかった時に、神に問いただしてみよう。
 カルマの考えは、まとまった。
 その時。冷静さを取り戻したカルマの横で、ホウプが再び叫ぶ。
「バース、橋を架けたらどうする気だ!?罪人って奴と、各国を攻めるのか!?」
 ホウプの心は、当然ながらまとまっていなかった。
 ホウプの問いにバースは冷静に答える。
「だってそれが、私とクライムの願いですもの。クライムは人々の罪を勝手に背負わされた…
だから自然に人々を呪ってしまうのよ、可哀想よね。だから私は彼と共に、呪われた人々が居て当たり前の、呪いの国を作ろうと思うの。
そう…2人で、永遠の命を手に入れて、ね」
 ホウプは更に吠えた。
「そんな自分勝手なことで各地を攻めるのか!?」
 それを聞いたバースの表情が変わる。急に真剣な表情になった。
「自分勝手なんかじゃない。昔々…この大陸には、”罪の祭壇”があった。
人々は犯した罪の内容をそこで告げ、反省の言葉を口にすれば罪は消えるとされた。
…おかしくない?罪なんて消える訳ないのに。クライムの呪いは、人間の罪が人間に返ってこようとしてるだけなんじゃないの?
だとしたら、呪われた人々の国はこの大陸にとって正しい、あるべき姿だと思うわ」
 バースの、妙に説得力のある言葉に、ホウプとカルマは何も言い返せなかった。
 バースは続けた。
「いずれ、あなたたちとは戦うことになりそうね。今はやめましょう。”革命の日”には、私もクライムも逃げも隠れもしないわ。そこで戦いましょう」
 そしてバースは背を向け、フシン側に向かって歩き出した。
「バース!!待て!!!」
 ホウプの叫び声に反応もせず、バースは行ってしまった。
 そして、罪人…クライムは、カルマに向かって言った。
「…カルマ。今度こそお前を滅ぼしてやろう。神に業を背負わされた、哀れな女よ」
 カルマは、神やクライムへの疑問を無理やり拭い去り、
「滅ぶのはお前だ、罪人…クライム!」
 と、強い口調で答える。
 クライムもバースの後を追い、行ってしまった。
 その場に残されたカルマとホウプ。カルマは、ホウプに話しかける。
「…ホウプ、帰るぞ。お前も、覚悟を決めろよ」
「…」
 ホウプは、答えられなかった。
 どちらにしろ、ここではフシンに向かえない。遠回りをしてフシンに向かっても、内部に侵入するのは難しい。
 2人は、ギルドに戻ることにした。