1755年 某日。
結区:マイオウギの軍隊が、起区:フシンの方角へ向かって進軍していた。
兵士たちは当初の予定通り、フシンに探りを入れる目的でいる。
士官の案で「カルマを参入させるため、兵士をオトリにするのはどうか?」とあったが、カルマはこれを拒否した。
自分の行動が、人間に大きな影響を与えることを嫌がったからであった。
カルマは軍の後方に居る。リゾクと一緒だった。
そう、王の後継者である、リゾクと。
「リゾク…お前も来るとはな」
「前にも言っただろう。私もいずれ、自ら戦に出なければならないと。まあ、今はまだ勉強のために見学するだけだが…」
マイオウギは、王が武将として自ら戦陣に立ってきた国家だった。王が自ら出陣することで、士気を高めている。
もちろん、王が倒れた時のために王の候補は何人も居る。候補とは、もちろん血族だ。
マイオウギからフシンへは、歩いて数時間はかかる。今の所フシンの兵士は見えない。
軍隊はフシンに向かい、ひたすら歩き続けた。
「カルマ」
「何だ」
しばらく続いた沈黙を破り、リゾクがカルマに話しかけた。
「その気になれば…その力で、フシンの兵士を全滅させられるのか…?」
「…」
カルマは、リゾクの方を向かずに答える。
「ああ、出来る」
リゾクは、カルマの横顔をじっと見つめていた。
「…でも、やらないんだよな?」
「やらない」
カルマはやっと、リゾクの方を見た。
「何か大きな力があって、その力が全て解決してくれる…確かに楽だなそれは。
でも、いざという時、自分で判断しなければならない時、困るぞ。誰かを頼りにしたいと思った時、力を貸してもらうのは良いかもしれないが、
誰かを頼りにしたいということと、大きな力に頼るということは、違う」
このカルマの長い言葉について、リゾクはしばらく考え込んだ。
そして、
「…なるほど」
と、小さく呟く。そしてこう言った。
「それに、手段を選ばなくてはな。勝てればいいという訳ではない…私は本当に平和になってほしいのだ。
手段は問わないでは、平和など訪れない」
「お前も、いいことを言うな」
リゾクはカルマに褒められて、嬉しい…というよりは誇らしく思った。
「リゾク、兵士たちの戦い様をよく見ていろよ。勉強になるぞ」
「ああ」
軍隊は更に前へ進む。
「リゾク」
「何だ」
しばらく続いた沈黙を破り、今度はカルマがリゾクに話しかけた。
「今後は国で、災害が起きても対応出来る政策か何かを考えろ。神が鎮めてくれるかどうか分からないからな」
リゾクはすぐにカルマの方を向いた。
「やっぱり、災害は神が鎮めてくれていたのか?」
「そうだ。だが今後は分からない」
カルマはリゾクの方を向かずに言った。
「私は生まれ落ちた時、神から知識を貰った。そして知識以外に貰ったのが罪人(つみびと)を倒す使命、そして、
”今後は力を少しずつ弱める”という言葉だった。私はその言葉を、”人間は神の力に頼らず生きろ”と解釈した」
「言葉?お告げのようなものか?」
「そうだな…頭の中に語りかけてきた。人間の未来を…頼んだぞ、リゾク」
納得しながらも、少し首をひねるリゾク。
「…何だカルマ、遺言のようなことばかり話すな…」
カルマはやっと、リゾクの方を向いた。
「遺言。そうかもしれないな」
「えっ!?」
先程まで、どちらかというと小声だったのにリゾクが突然大きな声を出したので、周りの兵士が一斉にこちらを向いた。
リゾクは慌てて小声に戻す。
「ど、どういうことだカルマ…!?」
「罪人を倒すまでは、年を取れない…」
カルマは、リゾクを見つめた。
「…そして、罪人を倒したら消える運命。それはそうだ、罪人を倒すためだけに生まれてきたんだからな」
「そんな…」
リゾクは、よろけそうになる。
当然、すぐには受け入れられなかった。
「どうにかならないのか!?なあカルマ…」
カルマは冷静だった。
「罪人を倒し…人間のことはお前に託した。もう思い残すことは無い…受け入れろ、リゾク。これは仕方がないことなんだ」
「…」
引き止めた所でどうにも出来ない事実、に、リゾクは感じた。が…
「ミコが悲しむぞ」
引き止めたい気持ちが…どうしても抑え切れず。
「…カルマ!」
事実ならどうにも出来ない。”そういう仕組み”で生まれてしまったのなら…
カルマは言った。
「ミコは強い。きっと乗り越える。そしてお前も乗り越える。私も…最後にお前たちと出会えて良かった。本当にもう、思い残すことはない」
「…」
その時、周囲がざわつき始める。
「敵軍だ!!!」
遥か前方からそう声が聞こえると、前方の軍が開戦する。フシンまであと1、2kmだが、フシンの軍もこちらに気付いて出陣していた。
「じゃあな、リゾク」
カルマは咄嗟に走り出す。リゾクはカルマ伝えたいことが山ほどあったが、すべての気持ちをひっくるめて、
「カルマ!!ありがとう!!!」
と、彼女の消えていく後ろ姿に叫んだ。
あっという間だった。
そう、カルマと出会ってからのこと、全てが…
「…私は、やるぞ」
リゾクは独り言を呟いた。
リゾクには、これからやらなければならないことが山ほどある。
この戦いが終わった後のことに頭を巡らせながら、彼は兵士1人1人の戦いをしっかりと目に焼きつけた。
カルマは走る。
マイオウギの兵士、フシンの兵士の間を、するりと縫うように。
横目でフシンの兵士を観察してみると、リゾクの言う通り彼らは残忍、というか正気を失っているように見えた。
カルマは、罪人の気配を”気”で感じることが出来る。
起区:フシンに近づくにつれ、気配は大きくなっていった。
近い…どのあたりだ…?
→