2.風:流れに身を:裏











なあ、ユリ。元気にしているか?
俺は今、とある島に居るんだ。お前もここに居るのかな。
それとも、別のどこかに居るのかな。
俺は、少しずつだけど、この島のことを知っていくことになるんだ。
そして…



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日時:不明
場所:トーキョーシティ
自分:ユリ


 ユリは青年に案内された病院で、診察を受けていた。
 病院は病院、何の変哲も無い普通の病院である。ユリは、何の変哲も無い診察室に居た。
医者「めまいは、いつからですか?」
 この医者の質問も、特別性など何も無かった。
 だが…
ユリ「この街に来てから…です」
医者「!?」
 医者の目の色が変わる。
医者「…街の外から来たんですか?なるほど…」
 その目は、何か隠し事をしているような目であった。
医者「めまいが止むまで、この病院に入院して下さい」
ユリ「…いや、それは困る」
医者「困るのはこっちですよ」
 医者の言った”困る”は、意味が分からなかった。
 何だかおかしい。2人は、違和感のある会話を、ただひたすら続けた。
ユリ「何かの病気なのか?」
医者「いえ、まだ慣れてないだけですよ」
 一体何の話だろうか。
ユリ「薬は?」
医者「薬はいりません。この街に慣れればいいだけの話なので…」
 ユリはこれで、何となく言っていることを理解した。
ユリ「他の場所とは、気候が違うのか?」
医者「まあ、そんなものです」
 曖昧な言い方は気になったが、とりあえず納得した。


 室内の少し離れた所で待機していた青年と、ユリは個室へ移動した。
ユリ「気候の違いでめまいがしていたのか…」
青年「良かったな、それだけで」
 青年も安心そうな顔をしていた。
 これでいい。ユリは青年の顔を見て、先程感じた違和感を無理矢理払拭する。
ユリ「とりあえず、一泊したら明日出る。政府のビルに向かわなければいけないからな」
青年「…?何であそこに…」
 ユリは、ここまで付き合ってくれた青年に、自分のことを伝えることにした。
ユリ「私は、ユリ。双子の兄であるチサトを探しているんだ。奴が政府に連れていかれた可能性があるから行こうと思ってる」
 青年の名前も、まだ聞いてはいないままであった。
青年「俺の名前は、葵」
 青い髪の青年の名は、葵(アオイ)と言った。
葵「字は、そのまんま植物の”葵”だ」
ユリ「字?漢字か?」
 ユリは少し驚いた表情を見せたが、改まって、
ユリ「私の方は、数字の”百”に、里帰りの”里”、分かるか?それで百里(ユリ)だ」
葵「そうか。よろしく、百里」
 長い付き合いになる訳ではないが、これも何かの縁だ。

百里「お前はこれからどうするんだ?帰るのか?」
葵「うーん…どうしようかな…どうせ寮で1人暮らしだし」
 葵は頭を掻く。
百里「自立しているのか」
 百里は何となく、ほっとした。ダメな若者ばかりかと思えば、そうでもないらしい。
 と思いきや…
葵「自立、とはちょっと違うな。俺は学校でも成績・訓練共にパッとしない子供だったんだ。
それで、家では家業を継げと言われたけど面倒そうだから逃げたくなって、
卒業と共にとりあえず親から離れて1人暮らしを始めてみたはいいが、
仕事もイマイチですぐに退社して今はバイトで寮生活だ。
今頃家に帰ったって家業継ぐのは嫌だし許婚と結婚させられそうだし、
いや、でもそっちの方が楽なのかな…どうするかな。
とりあえずその場しのぎで生活している毎日あいってえええ!!!!!」
 葵は頭を押さえて悶絶する。百里に思い切り殴られたからだった。
百里「この…最低野郎!!!」
 百里は葵と出会った中で、一番怒っていた。
百里「チサトは抜けててどんくさくてどうしようもない奴だが、お前はチサト以下だ!」
 そう言い切って3回ほど息をした後、急に冷静に戻る。
百里「…ごめん言いすぎた。お前はここまで私を連れてきてくれたのに…」
葵「いや、いいよ。正直、図星だしな…」
 頭を片手で押さえながら、無理矢理笑った。
百里「…葵…もう帰るのか?」
 少し控えめに、先程と同じ質問をする。
葵「いや、とりあえず政府ビルまで送っていくよ。今日はここに泊めてもらおうと思ってる」
百里「…すまない」
葵「いや、元々お前にバケツを落としそうになった侘びもあるからな」
 葵は、棚の上にあった毛布を手に取るとソファの上に広げる。
葵「食事を用意してもらうようにするから。ちょっと待っててくれ」
百里「…」
 葵は、ああいう経緯をしている割には、意外と気が回る。
葵「こういう時くらいはちゃんとしないとな…俺」
 …というよりは、気を回そうと必死になっている感じだった。
 2人はとりあえず一晩、病院でゆっくり休んだ。

 2人は、この時かぎりの縁くらいにしか思っていなかった。
 この時は。