9.陸:地に足を











 千里がエレベーターを降りて1階のロビーに着くと、そこはとても賑わっていた。
 いい香りがする…
千里「…ん?冬華!?」
 よく見ると、ロビーの中心で冬華が、ビルの関係者や兵士たちにカレーを配っていた。
冬華「あ…千里!」
 千里はすぐに冬華に駆け寄る。
千里「これは?冬華が作ったのか?」
冬華「はい、ドリーム島をしばらく離れるから、お世話になった皆さんへのお礼として。
傭兵一味だった頃は料理係だったんですよ?千里も食べますか?」
 千里は頷く。
千里「う、うん、もちろん!」
冬華「さあみなさん、たくさんあるからどんどん食べて!」
 ビルの人間たちが次から次へと冬華の元へ集まる。
 千里は、冬華のこんな明るい姿は、初めて見たのだった。
 これが本来の冬華である。冬華は冬華で、前に進もうともがいていた。
冬華「石投さんなんて、3杯も食べたんですよーふふふ」
千里「あー…想像つくなぁ。うん、おいしい」
 カレーを口にしながら、冬華につられて笑った。
 冬華はひととおりカレーをよそり終えると、千里の横に立つ。
冬華「ねえ…千里」
千里「ん?」
冬華「…私、仲間たちの最期がどんな感じだったのか、皆にきいて回りました」
千里「…!」
 本当は…ビルの中には、傭兵一味の最期を知っている者が何人か居た。
 傭兵一味は元々兵士に慕われており、絶命した姿を見てすぐに彼らだと分かった兵士たちが居たのである。
 しかし、彼らは、明るい冬華の雰囲気があまりにも変わり果ててしまっていたことから、冬華にそれを伝えることが出来ずに居た。
 冬華は仲間の死を知ると、兵士たちに、

 今まで黙っていてくれてありがとう。

 落ち着くと、見えなかった物が見えてくるものですね。黙っていてくれてたんですよね。
 あなたたちに慕われていた仲間は、本当に幸せだったと思います。

 兵士たちはそれをきいて、涙を流したという。
冬華「私の仲間たちは、最期までビルの中に居た人たちを外へ逃がしていたそうです。
ハルが最初に亡くなって…その後は、ケガをしたり意識がもうろうとした中でリーダーと、夏夜と、
そして千秋が人々を避難させて、崩れ落ちたロビーの内壁の中で発見されたそうです。
みんな、最期まで誰かを助けるために動いていたんですよ!
私の仲間はやっぱり素晴らしい人たちなんです、誇りに思います!」
 千里はなんだか、様々な思いに駆られて泣きそうになった。
 前に進もうともがいている冬華、
 千秋の最期の行動、
 ドリーム島の人々のこと、
 色々あるがうまく言葉に出来ない。
千里「…冬華、これから一緒にがんばろう!兄貴もみんなも見ててくれるよ!」
冬華「はい…!」
 2人は、しばらくロビーの雰囲気を楽しんでから、造船区へ向かうためにビルを後にした。


 2人は造船区へ向かい、スラム街の道を歩いている。
千里「…なあ冬華」
冬華「何ですか?」
 千里は冬華の方は見ず、遠くを眺めながら話した。
千里「俺は正直言うと、途中までドリーム島のこと怖くて仕方なかったんだ。知ってる風な口きいて、分かったようなこと言ってた」
冬華「…分かろうとしてくれてたのは伝わりました。あなたの言っていたことは全部合っていたもの。嬉しかったですよ」
 冬華の言葉に少し救われる。
千里「ありがとう。でも、俺さ…兄貴の墓を見に行ってから数日の間、色々考えたんだよ。改めて、俺がドリーム島をどう思っているのかって」
 千里は、足元をキョロキョロと見回した。
 元々たくさんではない。その上今は秋なので、あまり見当たらなかったが。
千里「…俺…初めてドリーム島に来た時…
ここ、ビルとスラム街と、鉄柱とかレンガとかスクラップばかりなのに、
その景色の中に花が一輪だけ咲いてて…何か分からないけど頭にすごく残ってるんだ。
俺…アレ…好きだなあ…
零と冬華は、<E-ナンバーズ>はドリーム島のことをまだよく知らない、知らないことが多いって言ってるけど、
<E-ナンバーズ>があの景色を知っていたんだとしたら、命をかけてこの島を守ろうとした彼らの気持ち、
俺、少しだけ分かるような気がするよ。彼らにとってこの島は、守る価値のある物だったんだって」
冬華「…そうかもしれませんね。そうかもしれません…」
 2人は造船区に着くまでの間、ドリーム島の景色をしっかり目に焼きつけながら歩いていった。


 ついに2人は造船区に辿り着く。造船区では、既にスタンバイしていた政府の人間や兵士たちの指示で、着々と出航までの準備がなされた。
 兵士の中には、あのショウも居た。
ショウ「お前、こんな戦時中によく島の外になんて出ようと思うよな」
千里「いや、俺は元々外から来た人間だし別に。それに、じっと考えごとしてる方が今は怖いよ、なあ冬華!」
冬華「はい、そうなんです!」
 ショウは苦笑する。
ショウ「…そうか。無事帰ってきてくれよ」
千里「もちろん!」
 2人は船に乗り込み、船はついに出港する。
 ドリーム島の人々は、船がバリアをすり抜けてから水平線の先に消えるまで、ただじっと、船を見つめ続けていた。