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・18~19シャル編、ムジカ編
青字…シャル編
黄字…ムジカ編
下線はシャル編/ムジカ編
シャルとムジカはジェミニから、カタルシス国の話を聞く/聞かないことにした。
シャルはジェミニに対し、感情を悟られないように無表情で言った。
「話を聞くだけだからな」
「ええ、分かってるわ。では話しましょう」
ムジカはジェミニに対し、申し訳なさそうに言った。
「…ごめんなさい、急いでるの。話は今度でいいですか?」
そこでシャルが咄嗟に話に入る。
「ちょっと待ってくれ…!話を聞くだけだ。何かの役に立つかもしれないし…」
ムジカは思わず「…シャル…」と呟いてしまう。
シャルの言葉を聞いたジェミニは、シャルを興味深そうに観察しながら言った。
「気になるの、シャル?ふふ、そう…では話しましょう」
ジェミニは、静かに語り始めた。
「ジェイド地区が事故で滅んだ時、帝国の報告に違和感を覚えたの。事故の前にいつもは居ない帝国の人間が出入りしていたという報告があったのよ。そこで私が軍にスパイとして入り情報を調べた。それで事件のことを知ったのよ。そして、事件を起こしたこと…というよりも、謝罪もせずに隠ぺいして罪を無かったことにした帝国へ復讐するために、生き残りでカタルシス国を作った」
ここでムジカはライブラに質問をした。
「ライブラさん、何であの時言ってくれなかったんですか?」
あの時とは、ライブラがジェイド地区でシャルとムジカを救出した時のことだ。ライブラは冷静に答える。
「ジェイド地区の生き残りの中にも、穏やかに暮らしたい人間も居る。粛清等で彼らに迷惑をかけないように、カタルシス国がジェイドの生き残りということは極力知られないようにしているんだ」
その返答にムジカもシャルも納得した様子だったので、ジェミニは話を続けた。
「そのまま私は、内部崩壊を狙ってスパイとして軍に残った。そこでアイオラが兵器を作っていることを知ったの。あれだけの事件を起こしておいてまだ兵器を作ってるだなんて…怒りで震えそうだったわ。そこで私は、この兵器を完成させてから奪って、この兵器で帝国を滅ぼそうと思ったの。皮肉としてね」
ここで、今度はシャルが話に入った。
「アイオラ相手に使ってやろうとは思わなかったんだな」
シャルは、アルトと2人でアイオラの元に行った時にアイオラが爆破された時のことを思い出した。そう…ジェミニは、アイオラのことはあっさりと処分したのだ。
そこで、ジェミニの表情が変わる。わなわなと震えながら、言い放った。
「アイオラを早々に処分したのは…本当の敵は皇帝だからよ。いつも穏やかなふりをしているレオ皇帝…ホープ帝国が非情なのはあいつのせいなのよ…アイオラの非情な実験もあいつが全部許可してるの!!全く反省もせず隠ぺいを指示したのも…!!外の島ではクローン計画なんてものを進めてるらしいじゃないの…恐ろしい…あいつだけは絶対に許さない…!!!!!」
そこでムジカは、ジェミニに同意するように話に入った。
「…少し分かる気がする。皇帝が居なければ、あたしたちこんな目に合わなかったってことだよね…」
シャルは思わず「…ムジカ…」と呟いてしまう。
ムジカの言葉を聞いたジェミニは、ムジカを興味深そうに観察しながら言った。
「分かってくれるの、ムジカ?ふふ…そう…」
ここでジェミニは我に返る。
「…取り乱してごめんなさい。話はこのくらいにしましょう…ライブラ、2人に兵器を見せたいわ。ちょっと確認してきてくれる?」
それに対し、ライブラは眉をひそめながら答えた。
「その後2人をちゃんと帰すんだな?それなら協力する」
「もちろんよ。カタルシス国への勧誘、断られたからね。どう生きるかは同胞の自由だもの」
ライブラが先に部屋を出て行くと、ジェミニは2人に説明を始めた。
「今回設置した兵器には砲台がついてるのよ。”輝煌砲”が撃てるの。これもアイオラが作ってたものよ。まさか自分の国を滅ぼすことになるなんて思いもしないわよね。本当に申し訳ないけれど、兵器だけは手放すわけにはいかないの、ごめんなさい。でもコアは返すわ。そろそろいいかしら…こっちに来て」
ジェミニが部屋を出て行くと、シャルは顔をしかめる。コアが戻ってくるのはいいが、兵器をそのままにしていいのだろうか…シャルは、とりあえずムジカに呼びかけた。
「…譲歩か…とりあえず行くぞ、ムジカ」
ムジカは不安そうに「うん…」と答える。2人はジェミニに続き外に出た。
…すると、何故か外は輝煌の霧に包まれていたのだ。
シャルはすぐにムジカに呼びかけた。
「これは…霧!?ムジカ、懐剣展開だ!」
「何で?ここ街中だよね?」
ムジカは答えると2人はすぐに懐剣を展開する。
これは、ジェミニが開発した輝煌フィールドによる霧だった。2人は知らないが、以前アリスが覚醒した際にジェミニがラングに話していた物である。
そして2人は、数体の機械兵に囲まれた。シャルはムジカを庇う仕草をしながら呟く。
「…やばいことに巻き込まれたかもな」
ムジカは目を見開いて叫び声を上げた。
「…騙されたの?嘘!!だってあの人私たちのこと同胞って言ってたじゃん…!!」
「さっさと倒して脱出するぞ。俺が指示出してもいいか?」
「了解…!」
シャルがすぐに呼びかけたので、ムジカも冷静を取り戻しシャルに答えた。
機械兵は、倒しても倒しても新しい物が現れ次々と襲ってきた。
ジェミニの狙いは何だろう…先程まで同胞だの仲間だの言っていたのに。ただ…
2人は思った。やっぱり、人間なんて信じられない…
その時、疲れて動けなくなっているムジカに機械兵が斬りかかろうとする。
それを見たシャルの頭が、一瞬真っ白になった。
刹那。
シャルの懐剣の光が赤く染まり、シャルはムジカに斬りかかろうとする機械兵を一瞬で撃破した。
そしてそのまま他の機械兵も一瞬で片付ける。
肩で息をしながら佇むシャルを見て、ムジカの頭も真っ白になった。
ムジカは、銃口から赤い光を放ち、周囲に居た機械兵は一体も残らず撃破されたのだった。
――そう…”懐剣:アニムス”と”懐剣:アイラ”の赤い光が目覚めたのである。
シャルとムジカは我に返り、互いの姿を確認した。そして、「ムジカ」「シャル」と名前を呼ぶ…
と、同時に2人は膝から崩れ落ちる。突然睡魔に襲われたのだ。
意識がもうろうとする2人の前に、ガスマスクを付けたジェミニが現れた。ガスマスクを付けているということは…催眠ガスを放ったという事だろう。
「…本当に目覚めたわ…凄い…」
ジェミニはそう呟くと、2人の間にしゃがみ、小声で囁いた。
「悪く思わないでね、砲台を使うにはどちらかをコアに封印しないといけないのよ。2人のこと観察させて貰ったけど、ムジカ/シャルの方が向いてそうね」
ムジカは何とか「…私たちを…騙したの…」と声を絞り出すが、そのまま気を失ってしまった。
シャルは何とか「…だ、騙した…な…」と声を絞り出すが、そのまま気を失ってしまった。
シャル/ムジカも既に気を失っており、ジェミニは同じくガスマスクを付けた仲間に指示を出すと、仲間はシャルとムジカを担ぎだした。ジェミニは気を失った2人に話しかける。もちろん聞こえてはいないが。
「全て終わったらちゃんと解放するわ。それと、今から道路と線路を封鎖するの。片方は今のうちにセンターシティへ返してあげるわね」
カタルシス国本部のあるスラムのビルの屋上に、砲台はあった。
ライブラがジェミニに言われた通り待っていると、そこにムジカ/シャルが懐剣から赤い光を放ったまま、気を失った状態で担ぎ込まれた。
ライブラは目を見開きながら言った。
「…どういうことだ、ジェミニ。約束が違うじゃないか。彼らに手荒な真似をしないと言ったから連れてきたんだぞ!?」
「だって、そう言わないとあなた従わないでしょ」
冷静に返すジェミニに、ライブラは激昂する。
「俺を騙してたってのか!?彼らは俺を信じてここまで来てくれたのに…!!」
「大丈夫、うまくいけばいいの。私を信じて…すぐに終わらせて彼らを解放するわ。その後は自由よ」
ライブラの目をしっかり見ながらジェミニが答えたので、ライブラは信じて従うしかなかった。
「…分かった。だが、そんなにうまく行くのか…?」
ライブラは砲台やレギュレート・コアの仕組みが分からないので、疑いながらも見ていることしか出来なかった。
その頃…ラング、アリス、エン、アルトの4人は、シャルとムジカの後を追うために駅に向かっていた。
駅に着くと、誰かが駅の椅子に横たわっているのが見えた。
「…赤い光!?」
アルトは思わず叫んでしまう。
そこには、懐剣から赤い光を放ったまま横たわっているシャル/ムジカが居たのだ。
ラングはすぐにシャル/ムジカに結界を使う。アリスが「シャル/ムジカ」と名前を何度も呼ぶと、シャル/ムジカはゆっくりと目を覚ます。そしてラングの顔を見ると、飛び跳ねるように起き上がって叫んだ。
「…ラング…!!カタルシス本部に急いでくれ!!ムジカが!!!!!レギュレート兵器のコアに封印されたかもしれないんだ!!早くしないと砲台が…!!」
「…ラング…!!カタルシス本部に急いで!!シャルが!!!!!レギュレート兵器のコアに封印されたかもしれないの!!早くしないと砲台が…!!」
その時。空が一瞬赤く光った。
カタルシス国本部のある方面から政府ビルに向かって、巨大な赤い光が放たれたのだ。
光は逸れ、政府ビルには当たらなかった。
エンは「今のは何…?」と聞くと、シャル/ムジカは答えた。
「確か輝煌砲…って言ってたな…砲台型のレギュレート兵器で政府ビルを打ち抜こうとしてる。もうコアにムジカが封印されたのか…早く行かないと取り返しがつかなくなる…!!」
「確か輝煌砲…って言ってた…砲台型のレギュレート兵器で政府ビルを打ち抜こうとしてる。もうコアにシャルが封印されたんだ…早く行かないと取り返しがつかなくなる…!!」
そこで、『カタルシス国本部への道が封鎖されました。列車の運行を休止します』という放送が響き渡った。
シャル/ムジカははっとして呟いた。
「そういえば、道路と線路を封鎖するって言ってたな…」
「そういえば、道路と線路、封鎖するって言ってた…」
ラングは思わず「…用意周到だな…」と口にした。
道路や線路の周囲を機械が飛び回り始めた。カタルシス国が封鎖をするために放ったのだろうか。
アリスはムジカ/シャルを心配し、慌てながら声を漏らす。
「どうしたらいいの…!?すぐに行かないといけないのに…」
皆、考える。どうやって砲台まで行けばいいのか……
その時、ラングは何かを思い付いたようにはっとし、呟いた。
「…バイクを使う。俺が助けに行く。バイクなら道路を一気に突破できる」
そこで、シャル/ムジカはラングに懇願した。
「俺も行かせてくれ。結界が無いと…何故か懐剣が手放せないんだ。そういう効果なのか…?」
「私も行かせて。結界が無いと…何故か懐剣が手放せないの。そういう効果なの…?」
それに対しアルトが反応する。
「そっか…懐剣を手放せば覚醒が収まるくらいなら、150年前にリマインド使う必要無かったもんね…」
「…じゃあ尚更俺が行った方がいいよな。ラングの結界が無いとどうなるか分かんねーし…」
「…じゃあ尚更あたしが行った方がいいよね。ラングの結界が無いとどうなるか分からないし…」
シャル/ムジカの言葉に、ラングは納得して答えた。
「分かった。エン、バイク取りに行くの手伝ってくれ。飛び回ってる機械がジャマだ」
エンは「そっか…!了解!!」と答え頷いた。
「ちょっと待っててくれ。鍵は持ち歩いてるから車庫に行くだけだ。すぐ戻る、結界が無い間耐えてくれ…!」
ラングはそう言うと返答を待たずすぐに走り出した。エンが後に続く。もう時間がない…
赤い光のせいかシャルの感情は不安定になり、ひどい頭痛に襲われた。心を落ち着かせるために、ふう…と深呼吸をするシャルに、アルトが心配そうな表情をして近付く。
シャルは、そんなアルトを安心させるように、笑顔で頭を軽くぽんと叩いた。
そこに、今度はアリスが近付く。アリスはシャルと目が合うと、涙を流しながら懇願した。
「シャルお願いムジカを助けて。友達なのよ…!!私も本当は行きたいけど…シャルお願い…でもシャルにも無理して欲しくない…何言ってるのか分からないよね…ごめんなさい…」
すすり泣くアリスの肩を、シャルはぽんと優しく叩いて囁くように言った。
「…姫、安心して。ちゃんと2人で帰ってくるよ」
そんなやりとりをするうちに、シャルの心は一気に落ち着いたのだった。
(不思議だ。アリスとアルトくんの顔見たらちょっと楽になった。やっぱ感情が関係あるからか…)
赤い光のせいかムジカの感情は不安定になり、ひどい頭痛に襲われた。心を落ち着かせるために、ふう…と深呼吸をするムジカに、涙をにじませたアリスが近付く。ムジカも涙をにじませ微笑んだ。
そのままアリスとムジカは、無言で抱き合った。
そこに、今度はアルトが近付く。アルトはムジカと目が合うと、瞳を揺らしながら言った。
「ムジカ…あの…僕もシャルに沢山助けられたから…」
不安そうにしているアルトの頭を、ムジカはぽんと優しく叩いて囁くように言った。
「うん、分かってるよアルトくん。ちゃんとシャルのこと、お姉さんが助けるからね」
そんなやりとりをするうちに、ムジカの心は一気に落ち着いたのだった。
(不思議。アルトくんとアリスの顔見たらあんまり苦しくなくなった。みんなのこと考えたらいける気がする)
その時、バイクの音が聴こえてきた。
ラングである。後部には、エンが立ち乗りで進行上の機械を撃破していた。
ラングがシャル/ムジカの前でバイクを止めると、エンはバイクを降りながら涙声で「無理しないで…みんなでまた美味しいもの食べようね」と短く伝えた。色々伝えたい気持ちがあるが時間がない。
シャル/ムジカは力強く「了解!!」と答えた。
「さあ、乗ってくれ」
シャル/ムジカはラングに言われた通り後ろに乗ろうとするが、小声で呟く。
「機械がうっとうしいなあ…エンの真似すれば行けるか…?」
「機械がジャマだなあ…よし、エンの真似しよう!」
そしてそのまま立ち乗りで後ろに乗り、ラングはすぐにバイクを出発させた。
残されたエン、アリス、アルト。エンは2人に話しかけた。
「私たちに出来ること、何かないかな?」
アリスは少し考えた後、意を決して言った。
「…父さんが言ってた、ジェイド地区の火口を塞ぐ仮説…試してみる?」
それと同時に、再び地響きが聴こえる。またどこかが崩落したのだろうか…
アルトはすぐにアリスに答える。
「そうだね。コアも無いし、このままだと崩落がどんどん進んでしまう…」
アリスは、2人を交互に見て、真剣な表情で言った。
「…命がけになると思うわ」
それに対し、エンは迷わず頷く。
「大丈夫。ランちゃんたちも命がけだから全然迷わないよ」
アルトもエンと同じように頷いた。
しかし、列車が止まった今、どうやってジェイド地区まで行くのか…アリスはその方法を考える。
「列車が止まってるのよね。父さんに車出してもらえないかな?家からここまで遠いから時間かかるかもしれないけど…」
それにエンも同意した。
「何もしないよりはいいよね。それでお願い、アリス」
アリスは早速デバイスで電話をかけ始めた。
シャル/ムジカはラングの後ろに乗り、機械やカタルシス国と思われる人間に”懐剣:アニムス/アイラ”を振るう。
アニムスはいつもの短刀の長さよりも長くなっており、剣のような形状になっていた。
ムジカは「全部撃ち落とす!!!」と叫びながら次々と赤い光を撃ち込んでいった。
赤い光…凄まじい破壊力だ。
バイクで障害物を避け、機械をなぎ倒し、カタルシス国と思われる人間を威嚇し、定期的に結界を使いながら猛スピードで進む。
それと同時刻…砲台では…
――苦しい…
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
レギュレート・コア内でムジカ/シャルの上げた叫びに、思わず砲台を見るジェミニとライブラ。
ライブラはジェミニに言い放った。
「おい、大丈夫なのか!?」
「…」
ジェミニは答えず、砲台を睨み付けるように見つめる。そして…
もう一度輝煌砲が撃たれた。
それは再び政府ビルから外れた。
その様子を目にしたラングは思わずバイクを止めてしまう。ラングは輝煌砲が外れたことを確認すると、ふう…と息を吐きながら言った。
「…外れたか!良かった…」
そこでラングがシャルの方を振り返ると、異変に気付く。シャルの様子がおかしい…
シャルは目を血走らせ、笑い狂いながら言い放った。
「いいぞムジカ…そのまま撃ち抜いちまえ!!!ホープ帝国を滅ぼすんだ!!!!!」
「…シャル!!」
ラングはすぐにシャルに結界を使った。
シャルは肩で息をしながら落ち着きを取り戻す。そして、小声で呟いた。
「…俺、今変なこと言ったな」
「赤い光の影響だ。シャルのせいじゃない」
ラングがシャルを気遣ってくれたが、シャルは自分の本心に気付いていた。
(…いや…今のは…赤い光の影響だけじゃない。多分、俺の本音だ)
シャルは、両親のことも、帝国のことも出来るだけ考えないようにしていた。
ジェイド地区の事件の話を聞いたあたりからだ。その感情は日が経つにつれ、どんどん大きくなっていった…
シャルは、本当は帝国がずっと憎かったのだ。
シャルは落ち着いた様子でラングに言った。
「ありがとう、もう大丈夫だ。行こうラング」
「…ああ」
ラングは結界を解除し、再びバイクを走らせた。
シャルは、ムジカに呼びかけるかのように呟いた。
「…憎しみと怒りが一気に来るみたいだ…ムジカ…1人はだめだ…こんな状態で1人で居たら頭がおかしくなる…!」
(辛くなったらみんなのことを想い出すんだ)
ムジカは目を細め、小声で呟いた。
「…今の砲撃、シャルの悲しみみたい」
今自分が味わっている苦しみと同じ状態でシャルが利用されている…シャルは今どんな気持ちなんだろう、どんな状態なんだろう、とムジカは考えを巡らせた。
ラングはムジカが肩で息をしていることに気付き、結界を使う。優しい声でムジカに言った。
「ムジカ、行けるか?少し休むか?」
「…ありがとう、大丈夫。今のあたしならいける…!!シャルを助ける!!ラング、行こう!」
「…ああ」
ラングは結界を解除し、再びバイクを走らせた。
ムジカは、自分に言い聞かせるように呟いた。
「…憎しみと怒りが一気に来るみたい…苦しい…でも大丈夫…シャルも同じだから…」
(辛くなったらみんなのことを想い出すんだ)
輝煌砲はもう一度放たれた。政府ビルから外れたことだけを確認し、ラングはすぐにバイクを走らせる。時間が無い…
――…ううっ…熱いよ…怖いよ…もう疲れたよ……寂しいよ……
ムジカの心の声は誰にも届かない。
シャルはムジカを思い、小声で呟いた。
「…ムジカ、耐えてる…たまたま選ばれたのはムジカだった。俺だったらとっくに撃ち抜いてたかもな…」
――…やっとこの時が来たな。ホープ帝国を滅ぼしてやる…
シャルの心は完全に暴走していた。
ムジカはシャルを思い、小声で呟いた。
「…シャル苦しいかな…たまたま選ばれたのがシャルだっただけなのに…シャルに手を汚させたくない。早く行かなきゃ…」
そろそろカタルシス本部である。シャル/ムジカは、空を仰ぎながら、一人で静かに語り始めた。
「…ジェイド地区の話をしてからだ。あれから、ムジカにはいつも本音を見透かされてたみたいだったよな…似てるもんな、俺たちの立場…」
そしてしばらくした後、再び口を開く。
「でも…ムジカは変わろうとしてたな。アリスを助ける時も必死に落ち着こうとしてた…極夜のことも…第二の故郷って…あいつなりに前向きに変わろうとしてたのに…ムジカに…何かあったら絶対に許さねえ…」
ラングの耳に、「ムジカに…何かあったら絶対に許さねえ」の部分だけが届いた。ラングはバイクのスピードを更に上げる…
「…ジェイド地区の話をしてからなの。同じ立場…シャルと私は同じだと思った。でもシャルは時々悲しそうな顔してた。だからずっと見てたの。折角みんなと過ごすようになって最近心から楽しそうだったのに…!!シャルを悲しませたら絶対許さない…!!!!!」
そこでムジカは我に返る。
(だめ、落ち着かなきゃ。穏やかな方がいいってシャルも言ってたもん。私にとってはその言葉が宝物だった…)
以前ムジカが、感情の起伏が激しいことをシャルに相談した時のことだ。シャルは「明るいムジカもいいけど、穏やかになってみるのもいい」と言ってくれた。
その言葉がきっかけだった。それ以降、ムジカは穏やかに前向きに変わろうと少しずつ努力をし始めたのだ。
ラングの耳に、ムジカの「絶対許さない…!!!!!」のところだけが聞こえた。ラングはムジカの様子を心配し、スピードを緩めて話しかける。
「ムジカ、大丈夫か?」
「…うん、大丈夫。怒りに身を任せてはいけないの…シャルを助けるために…」
ラングは頷き、再びバイクのスピードを上げる…
ムジカ/シャルは輝煌砲を撃つ度に叫び声を上げていた。
ライブラには、ジェミニが動揺していないように見えた。
「彼女の狙撃の腕は確かなのよ。まだ迷いがあるみたいね」
「彼には撃ち抜く気はあるはず。あと少しね…」
そう冷静に呟くジェミニに、ライブラは声を絞り出すように言った。
「…大丈夫なのか…苦しそうじゃないか…」
「一撃。一撃当たるだけでいいの」
そこでライブラは、ついに我慢の限界を超え声を荒げてしまう。
「ジェミニ、本当にこんな方法でいいのか!?双方の同意で開戦し正規の戦闘で帝国を打ち取れば、人々を納得させた上で新たな国を作れる…だからカタルシス国を作ったんじゃないのか!?」
「…そう。重要なのは人々を納得させることなの。それがこの砲台よ。これで政府ビルを撃ち抜けばそれが勝利の象徴になる…」
「…彼女/彼を苦しめてまでやることじゃない…」
ここでジェミニは涙目になり、ライブラに対し叫び声を上げる。
「もう後戻りできないのよ!!ずっと皇帝とアイオラの元で耐えてきた…やっとここまで来たの…一撃だけでいいの。政府ビルさえ撃ち抜けば…ライブラ、思い出すの!!帝国に殺された父さんと母さんの顔を!!!!!ジェイド地区の惨状を!!!!!帝国が私たちから全て奪い取ったのよ!!!!!」
ライブラはジェミニの肩を掴み涙声で言い放った。
「だからって何の罪も無い彼女/彼を苦しめて…!!!手段を選ばない帝国と何が違うんだ!!!!!こんな方法じゃ新たな悲しみが生まれるだけだ。もしこれで帝国に打ち勝っても、いつかムジカ/シャルを大切に思う人が今度は俺たちに復讐しに来るぞ…」
「…」
「…どけ!俺が解放する」
ライブラは業を煮やし、呆然と立ち尽くしているジェミニを手でどけて砲台のレギュレート・コアの蓋をこじ開けようとした。
しかし、どうやっても開かない。
「…壊れている?どうなってるんだ?」
砲台もレギュレート・コアも、過激な使用方法により暴走しているようだった。ジェミニは小声で「…もう手遅れなのよ…」と呟き、その場にへたれ込んだ。
ラングのバイクはカタルシス国本部のあるスラム街に到着した。
ビルの屋上にある砲台にすぐに目が行く。ラングはバイクを止めると2人はすぐに降りるが、カタルシス国の人間に囲まれてしまった。
「シャル/ムジカ、砲台を頼む!!ここは俺が引き付ける」
ラングが懐剣を展開し敵に応じると、シャル/ムジカは頷きすぐにビルに入る。
エレベーターは動いた。すぐに最上階へ向かった。
シャル/ムジカは最上階に着くとそこにある砲台を目にした。
充填され始めたところだ。再び輝煌砲を放とうとしている…
考えている時間は無い。シャルは走り出した。ムジカは懐剣を構えた。
そして砲台を、”懐剣:アニムス”の赤い光で貫いたのだった。
そして砲台を、”懐剣:アイラ”の赤い光で撃ち抜いたのだった。
砲台は音を立てて壊れ、コアの蓋が自動的に開く。
「ムジカ/シャル!!!」
シャル/ムジカはすぐに中にいる、黒い無数のケーブルに繋がれ気を失ったムジカ/シャルに駆け寄る。しかし…
「…何だ!?」
「…何!?」
黒いケーブルがどうやっても外れない。
そこでジェミニが無言で飛び出し、ケーブルを一本一本丁寧に外した。ライブラがムジカ/シャルを運び出し、砲台から少し離れたところに横たえた。
ジェミニは砲台をいじり出し、ライブラに呼びかけた。
「ライブラ手伝って!このままだと爆発する…回線を1つ1つ外すわ」
「分かった」
ライブラはムジカ/シャルをシャル/ムジカに任せジェミニの元に向かった。シャルもムジカも、気付けばもう懐剣を手にしていなかった。
「ムジカ、ムジカ、しっかりしろ」
シャルがムジカに呼びかけると、ムジカは静かに目を開いた。
ムジカはうつろな目をしながら、消えそうな声で呟く。
「…シャル…私…政府ビル撃っちゃった…」
シャルは、優しい声で、囁くように言った。
「大丈夫だ、当たってない。ムジカががんばって耐えたお陰だよ」
「…もう…疲れちゃった。何やってもこの世界は私を苦しめてくる。もう…疲れた…」
「そうだな。ほんとな…よく頑張ったな、ムジカ。でも、俺たちにはさ…故郷があるじゃん。一緒に極夜に帰って、ゆっくりしよう。6人みんなで帰って、また楽しい話をしよう…な?」
ムジカの目から涙がこぼれる。ムジカは声を絞り出した。
「極夜に…帰りたい」
「俺もだよ、ムジカ」
「シャル、シャル、しっかりして」
ムジカがシャルに呼びかけると、シャルは静かに目を開いた。
シャルはうつろな目をしながら、消えそうな声で呟く。
「…政府ビルには…当たったか…?」
ムジカは、優しい声で、囁くように言った。
「当たってないよ。大丈夫だよ」
「…俺は…当てるつもりで撃った…」
「赤い光のせいだよ、シャルのせいじゃない」
「違うんだムジカ…この憎しみは…俺の本音でもある。俺は本当は…帝国が憎いんだ…どうにもできねえんだよ…家族の顔が浮かんできて、どうにも出来なかった…」
「うん…そうだよね。辛かったね、シャル。シャルなら分かるよね…あたしも同じ気持ちだよ。でも一緒なら乗り越えられるよ。みんなにもさ、相談してみよ。みんなで考えようよ。ね?」
「…」
シャルの目から涙がこぼれ落ちる。
その時、砲台が暴発し始めた。破片がライブラとジェミニを襲う…ジェミニは叫び声を上げた。
「だめ、間に合わない…!!!!!」
ライブラはジェミニの腕を引っ張りながら言った。
「ジェミニ、逃げよう」
「だめよ、私のせいなのよ…私が…!!」
「…お前を止められなかった俺のせいでもある」
「…」
「行くぞジェミニ。シャル、ムジカ!!逃げろ!!!!!」
シャルの体力は既に限界だった。苦笑しながら呟く。
「体が動かねえな…極夜に帰りたいのに…ここまでかな…」
「…シャルだけでも…逃げて…」
シャルはムジカの目を見つめ、笑顔で言った。
「はは、逃げる訳ないだろ?…最期まで一緒だ」
そしてシャルは、ムジカを抱き締めるように覆いかぶさる…
ムジカの体力は既に限界だった。苦笑しながら呟く。
「どうしようかな。あたしの力じゃシャルを運べないし…ここまでかな…」
「…ムジカだけでも…逃げろ…」
ムジカはシャルの目を見つめ、笑顔で言った。
「もう、逃げる訳ないじゃん…最期まで一緒だよ」
そしてムジカは、シャルを抱き締めるように覆いかぶさる…
その時、ライブラは見た。盾を展開しながら走ってくるラングの姿を…
「2人を頼む…!!!」
ライブラは叫び、破片を浴びて怪我をしたジェミニに肩を貸しながらその場から離れる。
「シャル!!!!!ムジカ!!!!!」
ラングは2人の名前を叫ぶと、盾を限界の距離から飛ばし、2人と砲台の間に展開した。それとほぼ同時に爆発が起こる。
盾により爆風は軽減され、爆発による衝撃で大気が揺れたことと破片が飛び散っただけで済んだ。
そして、シャルとムジカは…