「虹」

空に浮かんだ幻











色々なことが、取り返しのつかないことになってるのかな。
支えるって、どうすればいいの
支えたって、結果が変えられない時はどうすればいいの
泣いてあげることしか出来ないの
私があなたのために泣くと、あなたは喜んでくれるけど、
それだけじゃあなたを助けることが出来ない…



 9人は、政府ビルに居た。
 入り口には、スムーズに入ることが出来た。恐らく三琴の言葉を受けて、息吹が皆に命令したのだろう、誰も9人をとがめたりはしなかった。
太一「…俺達8人も、素直に通してくれるんだな」
三琴「あなたたち8人に何かあったら、私が最上階に上がって来ないと思ったんじゃないかしら」
 ビルに来た目的は、息吹に会って研究をやめさせること。
 …建前は。
 太一と利九の目的は違った。寿命システムのことを息吹に聞くために、2人はビルにやって来たのだ。
 口が裂けても言えないことだが。


 9人はスムーズに最上階まで来た。
 すると。
幸四「…あれは…」
 幸四たち4人が来た時には、無かった入り口があった。
巳六「あんなトコに入り口なんか無かったよな?」
七々「じゃあ、あれが隠された息吹の部屋への入り口…?」
 9人は警戒しながら中に入った。


 中は、小さな研究室のようになっていた。
 機械やモニターがあちこちにある。扉もいくつかあった。息吹の部屋はいくつかに分かれている、ということだろうか。
 9人がキョロキョロ部屋を見回していると。
『…詩帆。本当に来てくれたんだな…』
 声が聴こえてきた。肉声ではない。
三琴「息吹。どこにいるのかしら。出てきてちょうだい」
 前にあった大きなモニターがついた。
『すまない。今、手が放せないからこれで失礼する』
 そこに写っていた、銀髪の黒いコートの男。
 こいつが、息吹。
太一「息吹…」
三琴「ホント、失礼ね。直接話がしたいのだけど」
 息吹の愛おしそうな視線が、三琴に向けられる。
『私もキミに会いたい。詩帆』
三琴「そういう意味で言ってないわよ」
 息吹の三琴への視線を遮って、幸四が三琴の前に出てモニターの息吹を見た。
幸四「息吹。全ての研究を今すぐやめて下さい」
 息吹の目が冷たい色に変わる。
『何度言ったら分かる。やめる必要はない』
幸四「…でしょうねえ。言っても分かってもらえないと思ったんで、直接会いたいって言ってるんですけど」
 そんなやりとりを耳にしながら。
 太一と利九は、そわそわしていた。
 いつ本題に入ろうか。もし本題に入るなら、皆に席を外してもらわなければならない。

…みんなに席を外してもらう上手い理由は、きっと利九が考えてくれてるだろうな。俺は、それに合わせればいい…

『詩帆。そろそろ、本当に私と共に来てもらわないと、困るんだ』
 その声は、今までの詩帆の名を呼んだ中で1番真面目な声に聴こえた。
三琴「…何が言いたいのかしら」
 そんな息吹の様子を察し、三琴も疑問を投げかける。
『早くしないと、お前の寿命が来てしまうからだ』
太一「!!」
利九「!!」

ああ やめろ

三琴「…寿命…?何の話…?」
『<E>は全員、寿命が設けられているのだ。しかも、ウィルスによって寿命を免れることが不可能になってしまった』
太一「やめろ!!それ以上言うな!!!」
 大声で必死に止める。
 だが。
 キョーダイ全員に、伝わってしまった。
英二「…それ、本当なの…?」
 全員唖然としていた。
 自分に寿命があるなんて。
 すぐに理解できる訳が無い。
 ただ、呆然としているしか無かった。
『寿命は、手術を施した日から5年。詩帆、キミが死ぬ前にキミの寿命チップを何とか取り出したいと…』
太一「…なら話は早い」
 太一が前に出る。
太一「お前、寿命チップを取り出す研究をしてるんだな。教えろ。今すぐ教えろ!!」
 キョーダイの皆に知られてしまったが。太一は、これはチャンスだと開き直った。
 クククク。と、息吹の笑い声が聴こえる。
『私が助けるのは、詩帆だけだ。<E-ナンバーズ>。お前達は暴れすぎた。お前達を助ける気なんて更々無い』
三琴「なら」
 拳をギュッと握った三琴が、わなわなと前に出る。
三琴「私は絶対に行かないわ。自分だけ助かるなんて…嫌だって、何度も言ったでしょう!?みんなを助けないと、私は絶対に、あなたの元へは行かない」
 それを聴いても。息吹は動じなかった。
『詩帆。きっと、昔のことを思い出せばキミは分かってくれる。昔のキミは、絶対にそんなことは言わない』
三琴「…!!」
 何も言い返せなかった。
『はっきり言おう。ドリーム島の技術で、寿命チップを取り出すのは無理だ。
そこで、私はライク島の技術で寿命チップとウィルスの研究を行っている。だから詩帆、私はキミを連れてライク島へ行かなければいけないのだ』
 太一は重要なことを聞き逃さなかった。
太一「ライク島に行けば、チップを取り外せるんだな…?」
 しかし。
『…それが、正直何とも言えないのだ』
 何を言っているのだろう。息吹は。
『研究が間に合わない可能性の方が高いのだ』
 ほんの少し、困った顔をしていただけだった。
太一「…お前…それじゃ、詩帆が助からないかもしれないじゃないか…何で焦らないんだよ…!」
 ゾッとする。
『もし間に合わなかったら…私は、詩帆と共に死ぬ』
太一「!?」
三琴「!??」
 ああ。こいつは。

 …詩帆のことを、崇拝しすぎている。
 息吹は、生きていようが、死んでいようが。
 詩帆と共にありたいのだ。
 ドリーム島でやってきたことも、全て詩帆のため。
 自分のせいで、詩帆が死ぬかもしれない。
 詩帆が死なないように、努力はしてみる。
 だが、詩帆の死は自分の罪でもある。
 ならば、自分も詩帆と共に死のう。
 そして、2人で永遠の眠りにつこう、と。

だめだ

 太一はモニターに背を向け、入り口の方を向いた。

こいつはもうダメだ

太一「みんな、帰るぞ。こんな奴に頼ったって俺達は助からない。レイがきっと何とかしてくれる」
『素直に帰すと思うか?』
 三琴はモニターを鋭くにらみつけた。
三琴「そうね。もしどうしても他に方法が見つからなかったら、またあなたに頼るかもしれないわ。だから、素直に帰してちょうだい」
 帰るための嘘だ。三琴に、息吹に頼る気など更々無かった。
『…分かった。いつでも頼ってきてくれ、詩帆』
 皆が入り口へ向かっている中。
 七々だけは動かず。
 息吹を、じっと見つめていた。
七々「…5年って…本当なの…?」
 その声は、震えていた。
『そうだ』
七々「…!」
 よろける。
 よろけた七々を、巳六がすぐに支えた。
 七々は、フルフルと震えながら、ゆっくりと巳六の顔を見る。
七々「…巳六…くん…5年…って…」
巳六「…うん。5年、だってさ」
 巳六が手術を施されたのは、5年前だった。
 巳六は、七々に少し困ったように、優しく微笑んだ。
 そして、皮肉めいた表情で、息吹をじっと見る。
巳六「お前。こんだけ好き勝手研究して実験して命を弄んで。…いつか、それで身を滅ぼすことになっても知らねーからな」
 息吹は巳六の顔を見て、笑った。
『お前まさか…<E-バイオレット>か?そうか。お前の命は、あと1ヶ月も無かったな』
七々「…!!」
 巳六は表情を変えず、利九を振り返った。
巳六「本当はあと何日だ、利九」
 巳六は、太一と利九が隠していたことがこのことであることを、既に悟っていた。
利九「…22日だ…」
 ボソリと呟いた。
巳六「…ふーん」
 素っ気ない反応を示す。
 巳六は息吹のことは見ず、太一の方を向いた。
巳六「とりあえず…こんな所に居たって仕方ねーからな。太一、帰ろうぜ」
太一「…あ、ああ…」
 違和感があった。
 あと22日で死ぬと言われても、全く動じていない巳六に。