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しっかりしろ。しっかりしろ。
いつもどおりにしてろ、俺…
きっと大丈夫
扉が開く。
部屋の中から、太一と利九が出てきた。
太一「あ、4人とも無事だったか!良かった良かった」
幸四「太一たちも無事で、何よりですよ」
やっとメンバー9人が揃ったのだった。
太一「こっちは、士季と千秋を助けたんだけど、そっちは?」
五月「…」
顔をそらした五月を見て、幸四は曖昧に答えた。
幸四「こっちも、3人何とかなりましたよ」
太一「そうか」
少しいつもと様子が違う五月に、八重が近づく。
八重「…五月、大丈夫?何かあった?」
五月「…」
五月は、少し驚いた表情で八重を見た。
八重は笑う。
八重「五月がつらい時は、あたしが側にいてあげるね」
五月「…」
一瞬だけ。五月は、複雑そうな表情で八重を見た。
が、すぐにいつもの五月に戻る。口元で笑った。
五月「そうか…ありがとな、八重」
八重「うん」
幸四「…」
一瞬の、五月の複雑そうな表情を、幸四は見逃さなかった。
巳六「そうだ、なあ太一。俺ら、成り行きで息吹…ここのボスな。息吹を、ブッ倒しに行くことになったんだけど」
巳六。
太一と利九は、巳六をじっと見つめていた。
巳六の命は、あと…
巳六「…んん?何見てんだよ?」
太一はハッとする。
悟られてはいけない。いつも通りでいなければ。
太一「あ…ああ!息吹っていうんだな、ここのボス。でも、何で息吹を倒すことになったんだ?」
七々「とある人と、ここの研究を全て止めてみせるって約束したの。だから、息吹を倒す…というか、話をしようと思って。どう、太一くん?」
太一は利九を見た。
利九「…すまないが、ちょっと今すぐに、レイに渡したいデータが手に入ったんだ。一旦戻りたいんだが」
太一「そう。それが終わったら、また息吹に会う為にビルに戻って来よう。それでいいか?」
幸四「かまいませんよ」
4人は頷いた。
その時。
『<E-ナンバーズ>。そこに居るのか?』
放送だ。どこからか、声が聴こえてきた。
『…ああ、そこか。見えた』
太一「誰だ!?」
9人は辺りをキョロキョロと見回す。
『そこだ。そこに、隠しカメラがあるだろう』
通路の天井の隅に、隠しカメラがあった。全員がそれを見ると。
『そう。それだ』
そこから見えているのだろう。そう答えた。そして。
『私は、息吹。ここのボスをやっている者だが』
太一「…!!」
何と、声の主は、政府のボスだったのだ。
幸四がカメラに一歩近づいた。
幸四「息吹。すぐに全ての研究・実験をやめて下さい」
『何を言っている。やめる必要はない』
幸四「…なら、やっぱり直接会って話すしかないですね…」
幸四はそのまま一歩引いて、元の位置に戻った。元々、言葉の説得で何とかなるとは思っていなかった。
その時。
『…詩帆…!そこに居るのか…!』
息吹の声は、喜んでいる感じにきこえた。
『詩帆…久々に、キミの顔が見れた…』
詩帆とは。
三琴「…あら。シホって誰かしらね」
キョーダイの視線は、全て三琴に注がれた。
三琴「詩帆はどこにも居ないわよ」
利九「詩帆は三琴の本名だ…」
三琴「知ってるわ」
さらっと言った。
『…そう、キミが詩帆だ。やはり思い出していないのだな…』
三琴は腕を組む。
三琴「誰のせいで、記憶を失ったと思ってるのかしら」
『それに関しては、本当にすまなかった。連れて来られた人間の中にキミが居ると知っていれば、キミに実験などしなかったのに』
息吹の声は、愛しい者に対して発せられるような声色だった。
『それに…キミはその能力ゆえに、廃棄されるか、処分されそうだった。それをやめさせたのは私だ。
その後も、キミだけ研究室から出して、私と共に居るように言ったのに…』
三琴はカメラを睨んだ。
三琴「…あなたは、私だけを助けようとしたわね。自分だけ助かるなんて、まっぴらだったわよ。だから断ったのだけど」
太一「ちょっと待て」
黙って2人の会話を聴いていた太一が、居てもたっても居られなくなって、2人の会話に割って入ってきた。
太一「息吹。お前、三琴の何なんだ…?まるで、昔から知ってたような言い方をしてるよな」
息吹が、笑ったのが分かった。
『三琴?詩帆のことか?詩帆は、私の幼なじみだ。2人で愛し合い、将来を誓い合った仲だ』
太一「!?」
三琴「…!!」
これには、さすがの三琴も驚きを隠せなかった。
『将来政府のボスになって、様々な研究によりドリーム島を発展させると、私は詩帆に誓った。
そしてキミも…私の理想を信じてくれた。よく覚えているよ。幼い頃、海を見ながら語り合ったあの日を…
その時のキミは、海のように美しかった』
三琴「やめて」
険しい表情で言った。
三琴「それは詩帆と誓ったことでしょう?私は詩帆の記憶を全く覚えてない。詩帆の記憶がない私は、詩帆ではないわ。私は、三琴よ」
カメラから目を逸らさずに言った。
太一「そういうことだ」
太一も三琴より一歩前に出て、カメラを睨みつける。
『…まあいい。詩帆、最上階に来てくれないか?一度、きちんと話したい』
三琴は、カメラから目を離した。
三琴「今日は帰らせてもらうわ。そうね…明日か明後日に向かわせてもらおうかしら。その時は、兵士なんて配置しないで素直に通してちょうだい」
『分かった。待っているよ、詩帆』
ブチッ。
放送が、途切れた。
三琴「…さあ、これでいつでも息吹に会って話が出来るわよ。とりあえず、アジトに戻りましょう。レイにデータを渡すのよね?」
太一「三琴…」
メンバーの視線が三琴に集まっていた。
三琴「…みんな。さっき言った通りよ。私は三琴。私は、あいつなんかの理想に賛同しない」
そんなことは、言わなくても皆分かっていた。
太一「…うん。よしみんな、一旦帰ろう」
皆頷き、出口の方向へ向かって歩き出す。
しかし。
利九だけは、動かずに呆然と、立ち尽くしていた。
太一「利九」
肩を、ポンポンと叩く。
利九の反応は無かった。
利九の目は、ただ一点だけを見ていた。
一点とは、いったいどこだろうか。
…俺を残して、みんな死ぬ。
じわじわと、気付き始める。
この事実が、利九にとって何を意味しているのかということに。
利九「…俺を残して…みんな死ぬ…」
うっかり、言葉に出た。
太一「…!?利九…!!」
実は太一はもうとっくに気付いていた。
もしこの寿命のことが本当なら、
最終的に利九だけが生き残って、
利九がたった1人になってしまうことに。
わざと口にしないでいたのだ。
太一「…利九、きっと大丈夫だから。とりあえず、早くレイにデータを渡そう。きっと大丈夫だから。な?」
まだ実感が沸いていないせいか。利九も、頭の中で何とか太一の言葉を聞き入れた。
利九「…そう、だな…」
太一「…よし、行こう」
2人も、皆に続こうと歩き出した。
…俺を残して…みんな死ぬ…?
→「月」