「業」

死と幸せの狭間 上











血の繋がりって、本当に大切なんだろうか。
俺は、孤児院に入る前のことも後のことも何も覚えてないけど、こいつらとアジトで過ごしてきて、こいつらを大切だと思った。
本当のキョーダイと同じだと思った。
なのに



 夏夜は我を失って暴走していたが、素手だったので鉄パイプを持っている七々の敵ではなかった。
 素手の相手に武器なんて心苦しいが、今は事が事なのでそんなことは言っていられない。
 冬華は巨大な重器を思い切り振り回していたので、幸四と巳六2人がかりでないと手がつけられなかった。
 そして、木春には五月が。
 我を失って、鉄の棒で次々と攻撃を繰り出してくる木春に、五月は応戦していた。
五月「いい加減に…しやがれえっ!!!」
 左手で持っていた、能力で強化した木の棒を、思い切り振り払った。
 木春はそれを棒で受け止める。そして、五月を強く押しのけた。
 よろける五月に一撃喰らわそうとするが、五月はギリギリかわす。
五月「チッ…」
 五月は、またイライラしていた。

…やっぱりだ…
何なんだこれは…頭が痛え…


 木春の攻撃を、五月が受け止める。
 五月は、だんだん自分から仕掛けなくなっていった。
 何となく攻撃出来なかったのだ。

俺は…こいつを知っている…?
でもイライラするのは何でだろう。
俺は、こいつに対して、何か悔いが残っている…?


 思い出した訳ではない。
 勘だ。

…記憶じゃない。血が、そう言ってる気がする

 ドォン。

 冬華の振り回した重器によって、来た道を塞がれてしまった。
 幸四は、チラチラと木春と五月の様子を横目で見ていた。
幸四「…あの2人、このまま戦わせない方がいいかもしれません」
 冬華の重器に狙いを集中させながら、巳六は幸四に呼びかける。
巳六「幸四、よそ見してる場合かよ!さっさとこっちに集中して終わらせて…ハルと五月を止めんぞ…!」
幸四「…!…そうですね」
 巳六も、造船区の仕事の時にハルと色々やり取りをしていたため、ハルのことが気になっていた。
 幸四はもうよそ見はせず、冬華との戦いに集中した。
 木春と五月の戦いは続く。
 時間が経つにつれて、五月の攻撃頻度は確実に減っていった。
五月「お前…一体誰だ…」
 無意識に、そう木春に問いかけた。
五月「おい…攻撃をやめろ。こんなの、違う…違う…」
 ピクリ。
 木春が、僅かに反応した。
五月「…お前を見てると…イライラする…けど、」
 木春は、苦しそうな表情をして攻撃をしてきた。
 五月は、武器を立ててしっかりと受け止める。
 そのまま、鍔迫り合いのような形になった。
五月「…お前を見てると、イライラすんだよ…だって…俺は…」
 記憶ではなく。「血が」そう言っていた。
 その時、七々が夏夜を倒すことに成功する。七々は夏夜が気絶していることを確認して、五月の方へ駆け寄った。
七々「五月ちゃん…!」
 そして、幸四と巳六も冬華の重器を破壊することに成功した。七々がそれに気付き、冬華の元へ走って一撃を喰らわして気絶させた。
 男が女を気絶させるのは気が引ける。それを考慮して、七々が冬華を気絶させたのだった。
 冬華が気絶していることを確認する。
 そして、3人はすぐに五月の方を見た。
 木春と五月は、鍔迫り合い状態になっていた。
五月「…俺は…お前に対して、イライラしてるんじゃねえ…」
 色つきゴーグルでよく見えない木春の顔を、五月は、しっかり見て言った。
五月「…俺は…お前を、助けられなかったんだ…助けられなかった自分に、イライラしてるんだ…」

左京『絶対、助けてやるからな…手を離すなよ…!』
右京『いや、俺が必ず、お前を助ける…!』


木春「…う…ぐっ…ぐああ…」
 木春が頭を押さえた。
 1歩、2歩と後ずさる。
木春「サ…キョウ…」
 5歩くらい後ずさった後、顔を上げて五月の顔を見た。
木春「左京…生きていたんだな…」
 幸四と巳六と七々も、2人の様子をしっかり見ていた。
幸四「左京…五月の本名だと利九から聞いています」
巳六「え?じゃあハルは…」
 五月は武器を持っていた左手を下ろし、木春を見ながら言った。
五月「お前が一体誰なのか、教えてもらっていいか。俺は勘で喋っただけで、何も思い出せてねーんだ」
木春「…ああ」
 木春は右手でゴーグル、左手で黒い帽子に手をかけた。
 そして、おもむろに外す。
幸四「!?」
巳六「…え…!?」
七々「…!!」
五月「…う…そ、だろ…」
 ゴーグルと帽子が、下にボトリと落ちた。

 同じだ。

 同じ。

 そこには、五月と、全く同じ顔があった。

五月「…お前…何で…」
 そして木春は右腕の袖をめくる。そこには、五月の左腕にあるのと同じ入れ墨があった。
 木春は、まっすぐ五月のことを見ながら言った。
木春「俺は右京。お前は左京。俺たちは…双子だ。俺が兄でお前が妹。2人とも、京の一族の跡取りだ…この入れ墨は、京の一族の家紋」
五月「…お前が…双子の兄…」
 五月の目が、驚愕で見開かれた。
 五月も自分の腕をめくる。やはり同じ入れ墨だった。
木春「やっぱりそうか…生きていたんだな、左京…」
 その時。
木春「うぐっ…ぐあああ…!」
 木春が再び苦しみ出す。4人は、士季の「ハルが、特に症状が酷い」という言葉を思い出した。
五月「…待ってろ。今戻してやるから…!」
木春「来る…な…左京…」
 木春は、腰に付けていた小刀に右手を伸ばした。
 そして、それを五月に向ける。
木春「ぐ…っや…やめ…ろ…」
 小刀を持った右手を、左手でぐっと押さえた。
木春「くっ…ダメ…だ…俺、は…!」

 ぐさり。

五月「…え…」