「知らないこと」って、すごく幸せなことだと思うわ。
知ってしまうと、それに縛られて、みんな苦しんでしまうのよね。
でも。
もし知ってしまったとしても…自分であり続けられたら…
工場区へ戻ってきた太一たちは、言葉を失った。
アジトへ行く道の所々に、工場区の仲間が倒れている。
すぐに駆け寄って抱き起こした。
太一「おい…どうした!?何があったんだ!!」
「いてて…あ、太一」
仲間はすぐに目を覚ました。命に別状がある感じではない。
「黒スーツの男達が急にやって来てな…そうだ太一、三琴ちゃんが危ねえ。あいつら、アジトの方へ向かってったぞ…」
太一「…!!」
太一の顔色が変わった。
太一「…三琴」
弾けるように、アジトの方向へ走り出す。
英二「太一!待って!!」
倒れている仲間達を他の無事な仲間に任せ、他のメンバーもアジトの方へ走り出した。
零「太一!!」
アジトの前で、零が倒れている仲間を介抱していた。
太一「レイ!!三琴は…!!」
零「中に居るよ。大丈夫そうだったよ」
太一は頷きもせず、アジトの中へ走って入っていった。
太一「三琴…!」
太一は、開かれたアジトの扉からアジトに入った。
家具がめちゃめちゃに倒れた広間の端に居た三琴は、太一に気が付き歩いてくる。
三琴「太一、おかえりなさい」
太一「お前…大丈夫だったか?」
三琴は広間をキョロキョロと見回し、苦笑した。
三琴「ごめんなさい、こんなにしちゃって。私も外に出て他の皆を介抱したかったんだけど、レイに”外に出ない方がいい”って言われて中で待ってたのよ」
他のキョーダイも太一に追いつき、広間に入ってきた。
利九が一歩前に出る。
利九「…能力を使ったんだな、三琴」
三琴「ええ。利九に言われた通り、使わせてもらったわ。八重が花をベランダに移動しておいてくれて良かった。
ここに花があったら、ためらって能力を使えなかったかもしれないわね」
三琴に微笑みかけられ、八重も少し笑った。
三琴「それはそうと、もうアンテナはマーキングし終えたの?もう島を脱出しに行くのかしら」
利九は首を横に振った。
利九「いや、造船所のゲートのコードを手に入れるために、またビルに行かなければいけない。アジトの場所もバレたようだから、今回は三琴にも来てもらう」
それをきいて太一が僅かに慌てた。
太一「でも利九、三琴はあそこのボスに執着されてるところがあるじゃないか。連れてって大丈夫なのか…?」
利九「ここに1人で居る方が危険だ」
太一「!…まあ…な」
太一はしぶしぶ了承した。
利九「とりあえず、今の体力でビルに行くのはキツイ。今日はアジトでゆっくりしてくれ。明日の朝出る」
幸四「敵が寝込みを襲って来ませんかねえ…?」
利九は、男メンバー4人を1人1人見た。
利九「男メンバー5人で、交代で見張りをしよう。いいか?」
4人は深く頷いた。
深夜。
利九は、自分の順番の通り、広間で座って見張りをしていた。
すると、そこに。
巳六「おーい利九」
ドアが開いて、巳六が現れる。
利九「…お前の順番は、もっと後だろう」
巳六「うん、そうだけど。ちょっとお前に聞きたいことがあってな」
巳六は、テーブルの上に手をついて、そのままテーブルに座った。
そして、利九の顔をまじまじと見る。
巳六「利九も、1人で旅してた時期があったんだってな」
利九は僅かに反応した。
利九「…そうだな」
巳六「何年」
利九「2年だ」
傭兵一味に世話になっていたといっても、時々会うくらいだった。約2年、利九は1人で過ごしてきたのだ。
巳六「ふーん…」
利九「お前は、5年だったな」
巳六「うん、そうそう」
孤児院で、巳六は1番最初にさらわれた。それから今までが約5年だ。巳六の後、利九以外の全員がさらわれた。
それから利九が太一たちを助けるまでが約2年。巳六は、実験されて数週間でビルを脱出したため、約5年間1人だったのだ。
巳六は、利九の顔を見ながら、さらっときいた。
巳六「なあ。1人で居る時って、寂しかったか?」
利九「…!?」
利九は正直、かなり驚いた。が、冷静さを保とうと努力をする。
クールな表情で言った。
利九「…お前は、どうだったんだ」
質問で返した。
巳六「きいてんのは俺だっつーの。…まあ、いいか。俺、実は全然寂しくなかったんだわ」
利九「…?」
利九は少し驚いた表情になった。巳六は普通の表情で話を続ける。
巳六「強がってるとかじゃ全然ねーの。商業区でも色々慣れてるって言ったけど、1人で居るのも慣れてた。
だから、寂しいってどんな感じなんだろうなーとか思ってお前にきこうかと」
利九「…」
利九は、複雑な気持ちで巳六のことを見た。
一体何が複雑だったのか。何となく、考えたくなかった。
巳六は話を続けた。
巳六「まあ、色々な所で働いたし色んな人に助けてもらったけど、その場限りだったしなあ。基本1人だったな。
記憶にない大切な人たちを探してたのも、そういうのに憧憬抱いてたからだし。
そうだ俺、思ったんだけど、俺が1人で大丈夫だったのって慣れてたからだけじゃなくて、あー…眠いから俺もう寝るわ」
利九「!?」
唐突に話が途切れたので、利九は度肝を抜かれた。
巳六「うん、じゃあおやすみ利九」
利九「…ああ…」
巳六はドアを開けて、手をひらひらと利九に振って広間を出て行った。
話が唐突に変わるのが巳六の特徴であることは知っているので、利九は話の続きを促したりはしなかった。
続きが気にならない訳ではなかったが。
次の日。
メンバー9人は、零と適度にあいさつを交わした。もしかしたら、ビルへ行った後そのまま島を脱出して、零と会うのがこれで最後になるかもしれないからだ。
とはいえ、零は<E-ナンバーズ>のチップの研究をしているので、いずれ零も<E>の皆のために島を出るつもりだったので、あいさつは適度に交わしたのだった。
皆、ビルに向かって歩き出した。途中で黒スーツの男に会うことは無かった。
歩いている途中、八重が幸四の袖を軽く引っ張った。
幸四「?どうしたんですか、八重」
幸四は優しい表情で八重の方を向いた。
八重は、少し不安そうな表情をしている。
八重「島を出るの?」
幸四「そうですよ」
八重「…」
八重は、更に不安そうな表情をした。
幸四「…どうしたんですか?」
八重は少し考え、ポツリと言葉を漏らした。
八重「…あたし、この島のこと、もっと知りたかったのに」
幸四は驚いた表情をした。
八重が、ドリーム島に興味を持っているのだ。
幸四「そうですか…」
幸四は少し考え、思いついたように八重の目を見た。
幸四「またいつか、戻れる日が来たら、みんなでこの島に戻って来ましょうか。八重にドリーム島の雪月花を見て欲しいですしね」
不安がっていた八重の表情が、興味に変わった。
八重「セツゲツカって、何?」
幸四「四季の移り変わり、ですかね。4つの四季の景観の変化のことですよ。今は春なんですけど、次は夏が来て…
景色が変化していくんです。イメージとしては、春は花、夏は月、冬は雪、という感じです」
八重は、食い入るように幸四の顔を見た。
八重「春は花が咲くの?」
幸四「はい、花が沢山咲きますね。まあ、この前寒い日に雪が降りましたけど。そういうところも面白いんですけどね」
八重「ふーん…」
あれっ?
八重が、”何か”に気付く。
…におい…花…?
道の隅に、小さな花畑があった。
八重「えっ…道に花が咲いてる。鉢に入ってない!」
八重が大きな声で叫んだので、皆八重を振り返った。
三琴「そっか…八重は、鉢に植えられてる花しか知らないのね」
五月が、八重に近づいて来た。
五月「花ってのは本来、こうやって地面に咲いてるモンなんだぞ」
八重「ヘエ…これも雪月花のひとつなんだね」
五月「雪月花?…ああ、そうだな」
幸四は怪訝そうな顔で五月を見ていた。
幸四「五月が花の話をしているのって違和感ありますねえ」
太一「しっ…」
笑いを必死に堪える。
八重は、花畑を横目に見ながら目を輝かせていた。
八重「あたし、いつか絶対ドリーム島に戻ってこようっと」
太一「その時は、みんなで一緒に戻って来ようぜ。な?」
太一は、八重の頭をポンと叩いて言った。
八重「うん」
八重は、花畑が見えなくなるまでずっと花畑を見ていた。
雪月花だってさ。
もっと色んな花が見たいし、花以外も色々見たいし、
いつかまた戻って来よう。楽しみ。
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