人は行動を起こす時、何かしらの理由を欲しがる。
でも実際はどうなんだろう。
結局は、心の中に生まれた理由も分からない強い衝動に突き動かされて、行動することの方が多いんじゃないかな。
理由が分からないから、迷ってしまうのは仕方が無いと思うけど。
太一「リーダー代行、ごくろうさん、英二」
英二「まあ、リーダーってほどのことは何もしてないんだけどね」
医療所の、太一のベッドの横の椅子に座っている英二は、笑った。
英二「太一、何だかんだ言ってリーダーの自覚あったんだ」
太一「あーいや、そういうつもりはないんだけど…」
太一がアジトのリーダー格であることは、皆の暗黙の了解のことだ。
太一自身は自覚していないようだが。
英二「今回は、俺じゃなくて巳六が凄かったんだよ、ホント」
太一がうんうんと頷く。
太一「巳六ならやってくれると思ってたよ、俺は。あいつっていつも気まぐれだけど、結構気が回るところあるじゃん?結構しっかりしてるんだよアイツ」
英二「思い出してみれば、色んな所で助けてもらったもんね」
英二は、伸びをして深呼吸をした。
英二「さあ、そろそろ寝ようかな。今日はホント疲れた」
太一「おつかれ!俺も、無理して寝るかな」
英二は笑った。
英二「無理してって何。寝すぎて寝れないってこと?」
太一は、腕を組んでベッドの背もたれに寄りかかった。
太一「いや、何か最近、孤児院の頃の夢をよく見るんだよ。何だか寝た気がしないっつーか、何だかなあ」
英二は心配そうな顔をした。
英二「大丈夫…?」
太一はハッとなる。
太一「あ、別に大丈夫だって!ちょっと見すぎて疲れただけだ」
英二「そう?じゃあ俺、もう行くね」
英二が後ろを向こうとした時。
太一「…何で俺、昔のことを夢で見ちまうんだろうなあ…」
ボソリと、呟いた。
英二「…太一?」
太一は、天井を見ながら言った。
太一「見れなきゃ良かったのに」
英二「…」
それを聴いて、英二は椅子に座り直す。
英二「…やっぱ、昔のこと覚えてるのってつらいの?利九もそうだけど」
太一は深く息をついた。
太一「俺さ。八重が今の八重になって、それでもいいと思ったんだ。昔のことなんて関係ない。今の八重が八重なんだって。
でも、利九に昔の八重のことを聞いた時、すげー胸がざわざわして。”昔の八重のことを、思い出してやりたい”って思った。
それで、八重に刺されて「お兄ちゃん」って呼ばれた時、昔の八重が夢に出てきて、それが嬉しくて仕方がなかったんだ。
やっと思い出してやれたって」
英二は、頷きながら静かに聴いていた。
太一「…それって矛盾してるよな。俺は”夢で見てしまう”んだよ。
ハッキリ覚えてる訳じゃなくて、突然夢として出てきちまうんだ。
だから、五月や幸四みたいに昔より今が大事だって言い切れる訳でもないし、
利九みたいに昔のことをハッキリ覚えてる訳じゃないから、皆の記憶を取り戻したいって強く思ってる訳でもない。
中途半端なんだよ、俺」
静かに話を聴いていた英二は、口を開いた。
英二「…太一は、それでいいんだよ」
太一「…?」
英二「太一は、今のことも昔のことも、両方を同じくらい思いやってる。みんなそれぞれ、突き通すものがあるけど、
太一が両方を同じくらい大切にしてるから、みんながうまくまとまってるんだよ」
太一は、少し笑った。
太一「…そうかなあ」
英二「そうだよ」
2人して、笑い合う。
太一「あーでもスッキリした、ありがとな、英二」
英二「いいよいいよ。何でも聴くよ、俺」
太一「早くお前も、夢に出てきてくれればいいんだけどな」
太一は孤児院の夢で、キョーダイ全員を見たのだが、何故か英二だけは夢に出てこないのだ。
英二「あはは、いいよ別に。俺、気にしてないし。俺と太一、そんなに2人で喋ってなかったって利九も言ってたじゃん」
太一は、真剣な顔で英二を見直す。
太一「いや、絶対そんなハズはねえ!」
英二はポカンとした。
英二「何で言い切れるんだよ。覚えてないのに」
太一は頭をかいた。
太一「…うん、何でだろ。俺にも良く分かんねえ」
思い出した訳じゃないんだけど、俺と英二が喋らなかったハズは無いんだよ。何か、そんな気がするんだ。あー…何でだろ…何で出てこないんだろ、英二…
何か、凄く大事なことを忘れているような…
英二「そろそろ、ホントに寝るね、俺」
太一は我に返った。
太一「あー、おやすみ英二。今日こそお前の夢見てやるからな」
英二「いや、いいって」
英二は苦笑した。
利九「皆、これから1週間ぐらいは外に一歩も出ないように」
朝の広間のテーブルで、突然利九はそう告げた。
幸四「…何ですか急に」
五月「利九、あとは商業区だけじゃねーか。一気に行こうぜ」
利九は、テーブルに右手を置いた。
利九「俺達の存在は、政府に完全に嗅ぎつけられているようだ。外は今、黒スーツのまみれだ」
全員、息を呑んだ。
巳六「マジ…」
英二「あと1箇所なのにねえ…」
そこで五月が首を傾げた。
五月「でも何か、今更じゃねーか?今こんなに堂々と探せるんだったら、俺達が何年も隠れてた間だって、もっとちゃんと探すだろ普通」
英二が頷く。
英二「確かにね。俺、ずっと政府は実験のことが世間にバレるのがいけないから、堂々と俺達を探せないんだと思ってたんだけど、違うのかな」
利九は、腰に手を当てて英二を見た。
利九「そこは、その通りだろう。今回政府がこんなに堂々と俺達を探しているのは、俺達が時雨を殺した犯人として指名手配されているからだ」
椅子にだるそうに座っていた巳六の目つきが、少し変わる。
巳六「…死んでもまとわり付いてくんだなアイツ。うっぜーの」
巳六は、どうでも良さそうにパンを一口食べた。
幸四「でも利九、1週間っていうのは何なんですか?指名手配されているなら、今も1週間後も同じだと思うんですけど」
利九は、1通り皆を見回した。
利九「…工場区の仲間が、俺達が工場区に居ないという方に情報操作をしてくれている。1週間あれば何とかなると言っていた」
皆、驚いた表情をした。
英二「みんなが…」
利九「それまでは、食材も買って届けてくれるそうだ」
五月「…感謝してもしきれねーな」
そこで広間のドアが開き、七々が入ってきた。
七々「…みんな、おはよう」
皆、変にオーバーな反応はせず、自然に笑ってみせた。
英二「おはよう、七々」
幸四「もうみんな集まってますよ」
七々は少し考え込んで、顔を上げた。
七々「あのね、みんな。私…すぐに時雨のことを忘れるのは、無理かもしれない」
七々は、自分から時雨の話を切り出した。
七々「でも…前向きになれるように、がんばるね」
巳六「七ー々」
巳六が、椅子の背もたれに寄りかかりながら軽く右手を上げた。
巳六「もしアイツのことが頭に浮かんだら、俺のことばっか考えろよ。そうすれば、大丈夫」
七々は、くすぐったそうに微笑んだ。
七々「…うん、そうする」
皆はこっそり顔を見合わせる。
幸四「うまくいったみたいですね」
五月「七々が笑ってんのは、やっぱ嬉しいよな」
そこで、黙々と食べていた八重が口を開いた。
八重「…ねえ、1週間もここで、何するの?」
妙に的を射ていた。
英二「どうするの、利九?何かやることある?」
すると利九は立ち上がって、ドアの方へ一歩、歩いた。
利九「商業区は、かなり作りが複雑だ。俺はこの1週間で、商業区についてを徹底的に調べ上げる。皆、俺の部屋には入って来ないように」
そして、スタスタと歩き出した。
英二「ちょ…待ってよ利九!俺達に何かやることはないの?」
利九「好きなように過ごしてくれ」
英二「好きなようにって…何か、手伝うこととかない?」
利九は少し考えた。
利九「…手伝ってほしい時は、言いに来る。その時はすぐに俺の部屋に来い」
そして、広間のドアから出て行った。巳六がプッと笑う。
巳六「あはは、利九ってさ、俺ずっと思ってたんだけど、クールに見えて結構クレイジーっつーか、超行動派だよな」
幸四「そうですねー。周りが見えなくなるんですよ、利九は」
そこで皆、顔を見合わせる。
七々「…ねえ、これからどうする?」
巳六「…テキトーに遊んでるしか無いんじゃね?」
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