何も、言葉が出てこねえ。
何でだろ どうしたんだ、俺。
言葉が見つからない。
こんなこと、今まで無かったんだけどなあ
太一「あー…腹減ったあ」
零の医療所のベッドの上で、太一がぼやいた。
三琴「何か、作りましょうか?」
零の片付けを手伝っていた三琴が、太一の方を向く。
太一「ああ。片付け終わってからでいいよ」
三琴「分かったわ」
2人の様子を見て、零は微笑んだ。
零「君たち、夫婦みたいだね」
太一「!!?」
太一が、真っ赤になって慌てる。
太一「レイ、お前何言ってんだ!!俺らは別に…あっ…いってええええええ!!!」
三琴「もう、急に大声出すからよ」
三琴が、脇腹を抱える太一に駆け寄った。
その時。
ドアが、微かに開く。
八重が医務室に入ってきたのだ。
八重「…」
太一と三琴は、八重を見て微笑んだ。
太一「八重、どうしたんだ?」
八重「太一、刺してごめんね」
かなり、直だった。
2人は呆気に取られていたが、すぐに笑う。
太一「別にいいよ。もうすぐ直るし。でも、謝ってくれてありがとな。これで、この話はチャラだな」
八重「チャラ…?」
太一「謝って、許したんだから、この話は終わりだ。これからもよろしくな、八重」
八重は太一を見つめた。
八重「うん…」
そして、太一の赤い髪に、手を伸ばす。
三琴はハッとした。
三琴「八重、あなた…」
太一は、八重の手が届くように、少し前かがみになってあげる。八重の手が、太一の赤い髪に触れた。
八重「太一の髪の赤。血の赤と、全然違うね。赤にも、色々あるんだ…きっと」
三琴「八重…私の言ったこと、覚えているのね。そうよ、赤も白も、色々な種類があるの」
太一はふと、八重に尋ねる。
太一「血の色って…八重は、その…人を殺めたことが、あるのか?」
八重は首を横に振った。
八重「罪人を出されて、殺す実験をした。でも、能力が出しきれなくて殺せなかったんだ、あたし。その時に、血がいっぱい降ってきた。生きてる人の血」
三琴は、思わず八重を抱きしめる。
三琴「八重…もう、誰もあなたにそんなことはさせないわ。それと、覚えておいて欲しいのは。血の赤も、尊いということよ。
その人が生きている証、だから…そして、太一の赤は、それとは違う、やさしい明りなの。そう、八重が言った通り、赤にも色々あるのよね」
八重は、三琴の腕の中で頷いた。
八重「うん。今なら…分かる気がする」
太一は、八重に少し尋ねた。
太一「なあ、八重。八重はあの時、俺のことを”お兄ちゃん”って呼んでたよな。昔のことを思い出したのか?」
三琴の腕の中から離れた八重は、太一を見た。
八重「…ううん。何か、咄嗟に出たんだ。あたしも、よく分かんない」
三琴「昔の記憶とは関係なく、八重が呼んでしまったのかしらね?それとも、その時は思い出してたのかしら…」
太一は、少し考えた。
太一「…まあ、どっちでもいいか。うん。八重は八重、だもんな」
まるで自分に言い聞かせている様にも聴こえた。
その時、
英二「太一!!」
キョーダイたちが医務室に入ってくる。
太一「よお、お前ら、元気か?」
英二「元気か、じゃないだろっ!?全く…」
英二は、八重が居るので怪我の話はしないでおいた。
太一が無事だったので、とりあえず太一は、1通り全員と握手を交わした。
太一「お前ら、処理区に行くんだってな。おい、七々」
七々「うん?」
太一「…がんばれよ」
七々は微笑んだ。
七々「うん…ありがとう、太一くん」
太一はふと、キョロキョロ皆を見回す。
太一「…あれ。巳六は?」
皆、苦笑しながらお互いを見た。
幸四「巳六は、ちょーっと、様子がおかしいんですよね」
五月「そうそう」
太一は心配そうな顔をする。
太一「具合が悪いのか!?」
英二「そういう訳じゃないんだけどさ。まあ、大丈夫だと思うけど」
利九は皆を見回した。
利九「とりあえず、準備が終わったらすぐに処理区に向かう」
太一「ああ、気を付けろよ」
皆は、医療所から出て行った。
そして、それと入れ替わるように、
巳六「太一!!」
巳六が勢い良く飛び込んでくる。
太一「巳六!」
巳六は、走ってきた勢いでそのまま太一に飛びついた。
巳六「お前なあ、目え覚ましたなら言えよ!無事でまじ良かったな!」
太一「いてててて」
巳六「あ、悪りい」
パッと手を離す。
太一は、巳六の顔を見直して言った。
太一「なんだ巳六。いつも通りじゃん」
巳六はそれを聴いて、うーんと唸りながらベッドに座った。
巳六「いつも通り…じゃねえなあ」
太一「?」
巳六「…俺、七々の顔が見れねえの、今」
三琴が密かに反応する。
巳六「なんつーか…何て言ったらいいか分かんねえ。処理区のこと」
三琴「巳六。あなた、七々のことを本気で好きになっちゃったのね」
巳六は、真面目な顔で三琴を見た。
巳六「いや。最初から本気だったし」
三琴「…あら、そう」
三琴はプッと笑った。
三琴「七々の心に踏み込んで、拒絶されるのが怖いのかもしれないわね」
巳六「…拒絶」
巳六の心がズキンと痛んだ。図星。だったのだろうか。
太一は、巳六を見て座り直した。
太一「そうだなあ…大切なのは、巳六がどうしたいかだな」
巳六「俺がどうしたいか…」
巳六はベッドに寝転がる。
巳六「…あー…七々と一緒に居てー」
太一「それでいいじゃないか」
巳六はゴロンと転がった。
巳六「うん…分かってんだけど。あーあー」
すると巳六は急に立ち上がり、太一の目の前に座った。
巳六「つーかお前、怪我大丈夫かよ!!」
太一「…お前、気まぐれすぎるよ」
太一は苦笑した。
6人は、処理区に向かって歩いていた。
商業区の奥の奥の方に、ひっそりと入り口がある。
処理区には直接政府ビルと繋がっている入り口があるのだが、そこには処理区の管理人の家がどっしり構えられているので、ビルの侵入には向いていなかった。
商業区のアンテナは、処理区の入り口とは全く反対の方向にある。商業区は広い上に道も入り組んでいるため、今回は見送った。
キョーダイたちは今、政府に完全に嗅ぎつけられているため、長時間外に居られないのだ。
英二は、列の前を歩いている五月と七々の横に行った。
英二「七々。ずっと巳六と喋ってないね。どうしたの?」
七々は、目を伏せた。
七々「…巳六くん。きっと、今回の話聴いて、凄く困ってると思うんだ。おかしい話だもんね」
そして次に英二は、巳六の横に行く。
英二「巳六。七々の所に行かないの?」
巳六は上を向いた。
巳六「…うーん…だよなあ…何してんだろ、俺。くそっ…」
巳六くんと、何話していいか分かんない…
七々と、何話していいか分かんねー…
英二「…2人して、同じこと考えてそうだね」
幸四「ですねえー」
幸四は、笑顔でその様子を見守っていた。
幸四「変に考えないで、自然にしていればいいのに。若いですねえ」
英二「幸四も若いでしょ…」
処理区の入り口が見えてきた。6人は、網の戸をこじ開けて、そろそろと処理区に入る。
処理区は、スクラップと瓦礫に溢れていた。処理区だから当然なのだが。
しかし、ここには昔確かに、人々や七々が住んでいたのだ。
巳六「…」
巳六の中に、怒りなのか。悲しみなのか、よく分からない感情が広がる。
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