「空」

すみれ色の旅人











どうやら、俺らが出てる間に、あいつが帰ってきたらしい。

そう、利九が。



五月「遅っせえええええよ、ボケッ!」
 利九に言った訳ではない。太一たちに向かってだ。
幸四「何ですか、会っていきなり」
五月「帰ってくるの遅えんだよ!!三琴が料理作ってくれたのに、冷めちまったじゃねぇか!!」
三琴「いいのよ、五月。幸四たちもがんばってたんだから…」
 幸四は三琴に頭を下げた。
幸四「すいません、三琴。もちろん冷めても美味しいですけど、遅くなってすいませんでした。
じゃあ、いただきますか。…あ、五月、ジャマなんでどいてもらえますか?」
五月「アァ!??」
英二「いいから早く座りなよ」
 英二が呆れて言った。
 2人がやりとりをしたいる間に、太一は利九に最近のことを全部話し終わっていた。
太一「…ってことで…ゴメン、利九。全員じゃないけど、<E>ってバレちまったんだ」
利九「…」
 利九は、資料に目を通しながら話を聴いていた。太一が話し終わると同時に資料をパタンと閉じる。
利九「…お前ら、全員無事か」
 金髪の青年。彼が利九。
太一「ああ。色々あったけど、全員無事!」

怒られるかと思ってたけど、第一声が優しい言葉で少し驚いた…

利九「…ならいい。バレる日はいつか来ると思っていたからな。ただ、船について調べておいてもらえたのは助かった。
これからは、キョーダイ救出と船のアンテナについてを同時に進行しよう。だが船についてはもう少し調べてからだな…」
英二「利九は、何か新しいデータをハッキング出来た?」
 利九はいつも政府ビル奥地に忍び込んで、色々な端末から情報をハッキング…盗み取っているのだ。
利九「今回は、政府ビルの仕組みについてを中心に調べてみた。
もっと奥に行かないと、有力な情報が手に入らなくなってきたからな。<E>の能力についても、もっと調べておきたいところもある」
七々「2人のキョーダイについて、何か分かった?」
利九「どうやら2人とも、元々太一たちとは別の場所に隔離されていたらしい。見つからない訳だな…」
 利九はため息をついた。
太一「…なあ、利九」
利九「何だ、太一」
 意を決して話してみる。
太一「俺らも、今度からは一緒に政府ビルに行ってもいいかな」
利九「ダメだ」
太一「いいだろ?もうバレちまったんだからコソコソしてられないって。能力も使いたい放題だしさ」
利九「…」
 利九はじっと考える。難しい表情をしていた。
太一「利九が…」
 太一は立った。
太一「俺達を危険な目に合わせないようにしてくれるのは、嬉しい。
でも、俺らだってお前が1人で政府に行くの、ホントは嫌なんだぜ。危ねーじゃん…
俺らキョーダイなんだから、危険は全員で分かち合うってのは…ダメか?」
利九「俺は<E>じゃないから狙われていない。事情が違う」
五月「俺らは能力っていう武器を持っている。生身のお前よりは逆に危険は少ねーと思うけどな」
 利九は、更に考えた。
利九「…お前らが<E>だとバレた、と聴いて…実は少し考えていた。全員で突入して一気に問題を片付ける。
かなり危険だが、バレてしまった以上、地道な行動が逆に危険になったからな…」
太一「そう、それだよ!」
利九「だが…」
幸四「利九…お願いします」
七々「利九くんお願い」
三琴「利九…」
英二「もう、観念しなよ利九」
 全員のまなざしを一気に受け、…利九は意を決する。
利九「…分かった。だが、無理はさせないからな」
太一「!!ありがとう利九!!」
 全員は顔を合わせて喜んだ。
利九「そうと決まったら、事情を全てレイに話す」
太一「全部って…<E>のことも全部か?いいのか?」
利九「何かあった時のためだ。レイは信頼できる。それに、三琴は常にアジトに残ってもらう。
アジトに1人で居ても大丈夫なように、隣に住んでいるレイに事情を知っていてもらわなければならん」
太一「三琴、1人で平気なのか?」
利九「…何かあったら、能力を使ってもいい」
 三琴は、利九をまっすぐ見た。
三琴「…分かったわ。アジトのことは私にまかせて。でも、今からレイに話しに行くのには私もついて行くわ」


 零の医療所に、全員集まっていた。
 とりあえず、零に<E-ナンバーズ>のことを全て話した。
 零は、頷いたり驚いたりしながら話を聴いていた。
零「…ありがとう」
太一「え?」
零「やっと話してくれたね。これで全てのつじつまが合う」
太一「言わなくてゴメン…」
 零は首を横に振った。
零「いいんだよ太一。話してくれてありがとう。三琴のことは、僕に任せて」
三琴「よろしくね、レイ。普段はいつも通り生活してていいわ。何かあったらアジトも近いし、呼びに来るわね」
零「分かった。…で」
七々「で?」
 零は全員を一通り見回す。
零「もしかしたら不快かもしれないが、念のために聞いておきたい。キミたちの名前―”太一”とか”英二”とか。
数字になっているよね?それは、ナンバーズの番号か何かなのかい?」
 それを聴いた太一たちは、一斉に利九を見た。
 利九は皆を見回した後、零に向き直る。
利九「この名前は…レイの父、零也さんが付けてくれた名前だ」
零「…オヤジが?」
 零は意外そうな顔をした。

…俺達キョーダイは、全員孤児院で暮らしていた。
戦争で身寄りが無くなってしまった子供達。零也さんは、その孤児院を経営している人だった。
零は、その時はもう、医学を学ぶために外の世界に住んでいたから孤児院のことはよく知らないんだ。
俺達と出会ったのも最近だ。


零「オヤジが、キミたちに数字の名前を付けたのかい?」
利九「そうだ」
零「オヤジ…一体何を考えて…」
利九「孤児院に入ってきた順番だ」
零「!?」
 零は唖然とした。
零「あのバカオヤジ…」
幸四「でも」
 幸四は、利九の顔を見ながら言った。
幸四「その時僕達は、数字の名前を気に入っていた”そう”ですよ。仲間の証みたいだ、と言っていた”らしい”です」
 幸四は、全く覚えていないような言い方をした。
五月「そんで、元の名前があるくせに、自分から数字の名前にしてほしいとか後半入ったキョーダイも言ってた”みたい”だぜ」
 五月も、他人事のように言った。
英二「俺達の政府でのコードネームは、<E-レッド>とか<E-グリーン>とか…色の名前なんだ。
キレーな色なのに、冷たい響きがする…数字の名前の方があたたかい気がするなんて、おかしいでしょ」
 嘲笑。皮肉だった。一般的な印象とは全く逆になっていることに対する。
零「ところで…さっきから、昔のことを全然覚えてないみたいな言い方をしてるけど。小さい頃のことだから…って感じはしないね」
 零は、思ったことをどんどん聞いた。全て話してくれたことへの礼儀なのかもしれない。
 太一は言った。
太一「俺達、政府で実験される以前のこと、何も覚えてないんだ。実験された後からの記憶だけしかない」
 ガタン。
 零が立ち上がる。イスが倒れた。
零「何だって…!?」
英二「そう。全ての記憶は実験された直後から。スッポリ抜けてるんだ。言葉とか、生きるのに必要最低限のことしか覚えてなくて」
零「<E>は…全員そうかい?」
 全員頷いた。
零「本当に、そんな事が…実験の影響…?」
利九「実験の影響なのか、実験の一種なのかは分からない。だが、俺がビルに侵入してこいつらを助けに来た時には、もう…こうだった」
太一「唯一孤児院から”連れ去られなかった”利九が、何年かかけて色々調べて、助けに来てくれたんだ」
 衝撃の事実の数々に、零は衝撃を隠せない。
 しばらく考え込んで、長いため息をついた。
 そして、1度頷く。口を静かに開いた。
零「もし…余裕があったら…<E> の実験内容に関する資料もハッキングしてきてくれないかい?
それを僕が分析して、元の体に戻す方法…記憶を戻す方法を研究したいと思う」
利九「…いいのか?」
零「やらせてくれ。頼む」
 頭を下げた。
 太一は零に歩み寄り、零以上に頭を深く下げる。
太一「レイ。色々ありがとう。よろしく頼む」

太一は…こういう時は、すごくしっかりしてると思う。

零「工場区の、キミの仕事仲間たちにも全て話しておくよ。その方が、アジトに政府の人間が近づいた時に協力してもらえるからね」
太一「でも…」
零「…彼らのことも、信じてあげて。長い付き合いでしょう?」
太一「…分かった。実は、」
零「?」
 太一は、忘れていたことを思い出した。
太一「俺…少しだけ、実験前のこと、覚えてるんだ。なあ、利九」
利九「ああ、そうだったな。ごく稀に、太一だけは昔のことを思い出す時があるんだ。恐らく、太一だけは実験の途中で助けたからだと思うんだが」
零「分かった。参考にしておくよ」
 零は、久々に笑顔を見せた。